原宿ファストファッション戦争はどこへ行く?:それゆけ! カナモリさん(3/3 ページ)
高級ブランドや百貨店の苦戦が続く中、好調が続く「ファストファッション」。その競争も激しさを増すばかりだが、最後に勝ち抜くのはどこのメーカーか。流行の発信地、東京・原宿を歩いて考えた。
ファストファッションを脅かすユニクロ
バリューラインを下回ると、価格に対して価値が低いということになるため、当然消費者の支持が得られるなくなる。逆に、そのバリューラインを超える存在は、バリューライン上のプレーヤーに攻撃をかけることができる。
バリューライン上ですみ分けているファストファッション勢を脅かす一番の強敵は、言わずと知れたユニクロである。世界規模で見れば、例えば H&Mは売り上げが1兆円越えでファーストリテイリングの倍であるが、ユニクロの卓越した品質へのこだわりはバリューラインのはるか上を行く。かつてはファッション性を高めることよりも品質を優先していたユニクロであるが、ジル・サンダーをデザイン監修に迎えるなど完全にファストファッションへの対抗姿勢を明確にしている。海外から進出してきたという珍しさが冷めたころ、ユニクロがファッション性をアピールして顧客層を切り取っていくかもしれない。
ユニクロに次ぐ勝ち組ポイント
ユニクロに次ぐアパレルの勝ち組として、経済紙でもその社名をしばしば目にするようになったポイント。同社の展開するブランドを7つ集めた複合店舗「コレクトポイント」が4月に明治通り沿いを渋谷方向に進んだ神宮前6丁目にオープンした。
店内に入ると、ファストファッション、特にフォーエバー21、H&Mとの違いが大きく感じられる。ゆったりしているのである。天井が高い。商品が並べられているだけでなく、店内装飾がある。通路も広く、ゆっくりと買い物ができる。ふと、「ああ、洋服を買う時ってこんな感じだよな」と思う。ファストファッションの店舗では、「買い物」というよりは「補給」という感じでモノを買っているように見えた。
複数ブランドが同一店内にあるため、その幅広さも楽しい。価格はファストファッション価格である。品質はあくまでファストファッションのバリューライン上にあるのと変わらないと思う。しかし、本当に買い物の好きな人や、服が好きな人はこっちで買うだろうなとも思う。ポイントも海外ファストファッション勢から徐々に顧客を切り取って行くに違いないと思う。
老舗の風格GAP
ラフォーレ原宿の前にはGAPがある。ファストファッション勢としてはとらえられていないが、H&Mやユニクロが採用しているSPA(製造小売り)という方式を最初に取り入れたのがGAPだ。コレクトポイント以上に店内はゆとりがある。価格は高くないが、品質はファストファッションのバリューラインを超えているように思える。そして何より、店内で初めて店員から声をかけられ「接客」された。
衣料品の購入時の接客には賛否両論あるが、ずっとファストファッションの店舗を見てきて、「品出し」だけに忙しく追われている店員を見ると、接客されるのも悪くないと感じる。ある程度の年齢層より上は、ファストファッション店からGAPに来るとホッとする気分がするのではないだろうか。GAP回帰現象ももうしばらくすると見られるかもしれない。
今回は、あくまで主観的に原宿ファストファッション戦争といわれる現場を見て、今後を考えてみた。世は栄枯盛衰。かつての花形であった百貨店と高級アパレルブランドの低迷が示すように、大流行のファストファッションもやがては変化の波にさらされていくはずだ。
その変化をものにするのは、どんなプレーヤーか。メディアの情報をうのみにするのではなく、実際に現場に行って、観察し、肌で感じて、想像をめぐらせてみるのも、大人な原宿の楽しみ方に違いない。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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