お菓子から化粧品、ノートまで――賢いサンプルの配り方とは?:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
アンケートへの協力などを条件とした、無料の“サンプル配布”が各分野で盛んだ。しかし筆者は、ただ単純にサンプルを配っているだけでは効果は小さいと主張する。どのようなことを考えて配布すれば、効果が高くなるのだろうか。
サンプル配布、成功のポイント
今は不況の真っただ中。費用対効果を考えると、無差別配布ではなく実購買につながるターゲティング配布が望ましい。
ターゲティング配布の代表例は、実購買につながる可能性が高い有料配布である。お得感を出すためにサンプル価格を定価の2分の1に抑えたり、消耗品なら「Buy One, Get One Free(1つ買えばもう1つはタダ)」オプションを付けたり。もう1つもらう時点でモニター意見をもらえば、「買った」と「謝礼の提供」のバランスがとれているのでバイアスもかかりにくい。
私のお勧めは「部分を配る」。配布するものは“一部分”であり、コンプリートさせない。“全体”を買わせるためのリードにするのだ。
私がサンプルでもらったナレッジストックノートはA4サイズ。そして、どうやらA5サイズもあるようだ。A5が好きな私は、A4のサンプルを使いながら店頭でA5もチェックしてみようかなと思う。これが“部分戦略”である。さらに好例はBMWジャパン。2010年に発売するハイブリッド車の発売までお客さんをつなぎとめるため、既存のガソリン車を割安でリースするサービスを提供する。お客さんがほかのクルマに流れるのを止め、サンプルのリース車両は中古車としても売れる。とても賢い。
深層心理にブランドを埋め込むサンプル
直接購買にはつながらないが、深層心理で顧客を作るサンプリングにも注目したい。以前勤めていた会社近くの五穀米レストランの店員が、路上で配布していたふた口サイズのおにぎり。ラップでくるまれており、粟や麦や豆が香ばしくおいしかった。そのレストランの前を通るたびに“あのおにぎり”を思い出す。五穀米と聞くだけで、あのおにぎり。心の深層に刺さるサンプルだった。
それと似ているのが、11月21日のファーストリテイリング創業60周年の“アンパンと牛乳配布”。ユニクロが誕生した25年前に配布したシーンを再現した。商品サンプルではなく、“感謝のサンプル”を配布する巧みな話題作りだった。「アンパンと牛乳=ユニクロ=創業の原点」という想起が消費者に刷り込まれた。
サンプル配布とは、商品購買やクチコミの促進だけでなく、深層心理にブランドや商品を埋め込み、プライミング(記憶の呼び水)させる手段となるのだ。
サンプルってやはり微妙
さあて、いただいた3つの品、いずれサンプル評価を書かないといけない。だが、“もらっちゃった効果”で評価にブレは出ないだろうか? 「出ない」とは言い切れないが、持ち上げる記事を書けるほど、まだ人間はできていない(笑)。「じゃあ、いっそ書かないで済ますか……」というのも非礼な気がする。サンプルとはもらう側にとっても微妙な存在なのである。
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