「ジョージア」復活の秘密とは?――コカ・コーラのブランドマーケティング(2/2 ページ)
1990年代中ごろ、缶コーヒー市場で圧倒的なシェアを持っていたのがコカ・コーラ「ジョージア」。しかし、ブランド力ではライバルのサントリー「BOSS」に負けていたことから、コカ・コーラは広告戦略を大胆に切り替え、ブランド力トップの座も奪った。コカ・コーラはどんな戦略を採用したのだろうか。
何のために缶コーヒーを飲むのか?
そこで、魚谷氏とジョージアチームは、新しい広告施策のコンセプト作りに着手します。
1994年はバブル崩壊後で企業のリストラも本格化し始めたころ。サラリーマンは厳しい現実に直面していました。このような状況では、「頑張れ、サラリーマン」と鼓舞するのは空虚であり、むしろ「ちょっと一息ついて休みましょう」というメッセージを発信するのが、時代の空気に合っていると考えられました。
実際、缶コーヒーの利用実態調査でも「リラックスするために飲む」という項目が、缶コーヒーを飲用する目的の第1位になっていました。
ただし、当初は男性向けの商品ということで、男性目線で展開するクリエイティブを予定していたところ、予期せぬトラブルによって練り直しを余儀なくされた中から出てきたのが、「女性が男性に優しく『お疲れさま』と語りかける」という切り口だったのです。
この語りかける女性役として20代、30代、40代それぞれの年代に受ける女性タレントが3人選ばれましたが、20代向けとして選ばれたのが、当時はまだそれほど知名度のなかった飯島直子さんだったというわけです。
1994年、「ジョージア 男のやすらぎキャンペーン」と題して始まったキャンペーンは大きな反響を呼び、特に飯島直子さんのポスターはすぐにはがされてなくなってしまうほどの人気を集めます。
そして、翌年から始まった、缶に張られたシールを集めて応募すればパーカーなどがもらえるプレゼントキャンペーンは初年度3400万通、翌年は4400万通という驚異的な応募数を記録したのです。
前回書きましたが、ちょうどこの最盛期のジョージアキャンペーンの某プロジェクトに関わっていたので、当事者に近い立場で現場の熱気を感じることができたのはとてもいい経験だったなと思います。
シェアが10ポイント伸びる
さて、このキャンペーンの成功のおかげで、ジョージアのシェアは3年後に53%と、10ポイントの伸長を果たします。非助成想起率でも、BOSSを抜いて1位に返り咲くことができました。時代の空気を的確に読み、ターゲットの心に刺さる、また共感させることのできる広告・販促施策がどれほどの効果があるのか、このジョージアの1990年代の復活劇はとても参考になると思います。
なお、ジョージアはその後、再び低迷期を迎えますが、2000年から始まった「明日があるさキャンペーン」で再び勢いを取り戻したのは、皆さんの記憶にも新しいでしょう。
実は、現在のジョージアの市場シェアは30%強に落ち込んでおり、またまた厳しい状況にあります。1990年代よりも現在はさらにコンビニの存在感が増していますし、冒頭に述べたように、サントリー以外の飲料メーカーもかなり力をつけてきて、WONDAの「金の微糖」といったユニークな商品開発や広告展開が成功しているからでしょう。
ジョージアの3度目の復活はあるのか? 缶コーヒー市場を巡るトップメーカーの攻防は、目が離せない感じですね。(松尾順)
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