定期預金で安心って……本当? 金融商品、5つのリスク:ちきりんの“社会派”で行こう!(3/3 ページ)
金融商品への投資を語るとき、“リスク”という言葉がしばしば使われます。しかし、リスクにもさまざまな種類があります。その違いが意識されていないのではないでしょうか。
喧伝されるリスクと、されないリスク
というように、リスクにはいろんな種類があるのですが、まずはこれらの違いがあまり意識されていません。そして次の問題として、日本では特に「やたらと怖い怖いと喧伝されるリスク」と「あえて触れないようにされているリスク」があるように思います。
例えば、(1)の価格変動リスクや(3)の信用リスクは必要以上に「危ない危ない。だから触るな。投資なんかするな」と強調される。一方、(2)の流動性リスクや(4)のインフレリスク、(5)のプロセスリスクは、「あえて無視されているのでは?」と思うくらい言及されない場合が多い。とても不思議です。
例えば新日本製鐵やトヨタ自動車の株式も、価格は大きく変わるし、信用リスクは非常に小さいとはいえ絶対つぶれない会社だとは言えないかもしれません。「元本保証」が大好きな人にとっては「株は怖い」の範疇(はんちゅう)に入ってしまいます。
しかし、これらの株式は今日売ろうと思えば売れます。値段が付かない日というのは極めて限定的で、ほぼ毎日“市場”が存在しています。
でも、国債とか元本保証型変額年金とか、「元本が保証されてるから安心」みたいな商品の大半は、当初に予定した満期日までは全く換金性がありません(もしくは中途解約手数料がばか高いです)。でもそういう流動性リスクは、ほとんど言及されないように思います。
インフレリスクも意識されにくいリスクですよね。超長期の商品を買う人でさえ、あまり意識していなかったりする。「私は全財産を円の定期預金で持っているから安心!」ってのは、「何が安心なんだ?」って感じです。
「何でやたらと喧伝されるリスクと、あえて言われないリスクがあるのか?」というのは、“日本人の自然な嗜好”からではなく、そういう方向に“誘導”している人がいる気もします。「円にインフレリスクはない!」と思わせれば、資産は外貨ではなく円商品に向かうし、国債も売りやすくなる。保険・年金などの長期商品も売りやすい。
そう。そういう感覚が広まれば、国が国債を売りやすくなる、郵便局が貯蓄を集めやすくなる、簡保も売りやすくなる。財政火の車でお金がいくらあっても足りない国と、資金力を源にして政治力を発揮したい郵政公社にとっては、こういう「偏ったリスクの認識」は非常に“お金を集めるのに有利”な条件だと思います。
うまくできていますよね。
火は危ないから使うな!?
話を戻しましょう。
火の使い方を習うことは大事だと思うのです。「火は危ない。近寄るな」と言われて、ずっと使う練習もしなかった。でも、その裏側では、自分たちだけが火の使い方を知っていてうまく利用しているって人がいる。火を独占しておいしい思いをしている。そんな感じです。
学ぶべきは、大やけどをしない方法、ホントに基本的な知識だけでいいんです。それが身に付いたら、後は小さなやけどを繰り返しながら、火の使い方を覚えていけばいい。「投資は怖いからするな」「株に手を出すな」というのは、「火は危ないから使うな」という世界です。
それは……、「発展できない世界」とも言えるのでは?
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。
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