プリンタに求められるインテリアイズムとは?――キヤノン「PIXUS」デザイナーに聞く(前編)(2/2 ページ)
新しいインクジェットプリンタ「PIXUS(ピクサス)」は、ピアノブラックのシンプルなボックスデザインで登場。「操作性やデザイン性は、すべてインテリアとの関係性に含まれる」というデザイナーが込めた思いとは?
「見える」から迷う
PIXUS2010年モデルで一番目を引く仕掛けが「インテリジェントタッチシステム」だろう。操作部を静電センサー(タッチセンサー)にし、白色LEDで発光する。プリンタを使わないときには、すべてのスイッチがブラックアウトし、残るのは1枚の黒鏡面の天板だけになる。液晶パネルのフタで操作ボタンを隠す必要もなく、広い天板を大きく使えるようになった。
「イージースクロールホイールの仕組みは完成していました。その一方で、年々機能は増加し、電源を入れると目に入ってくるボタンや機能が6〜8個並んでいました。2010年モデルではさらに機能が追加される。こうなると、ユーザーがやりたい操作を選ぶためのステップが増えてしまうし、ステップ以前に迷ってしまう」(犬飼氏)
充実した機能をユーザーに使いこなしてもらうために、2006年には「ナビボタン」を搭載した。それを押すことで「○○という機能を使うためには、まず□□のボタンを押してください。次に△△のボタンを押します」といったガイドが表示されるものだ。機能を説明するために、操作ボタンが1つ増えた。
「使わないボタンというものは、常に一定数存在していました。それが『見える』ため迷いが生じるのであれば、いま使えるボタンだけを提供したい。そこから、ブラックアウトする操作部と使えるボタンだけが光る仕組みというアイデアが浮かびました」(島村氏)
インテリジェントタッチシステムを採用した結果、ナビボタンは廃止した。あえてなくしたのだという。
「インテリジェントタッチシステムそのものが、ナビボタンと同等に使えるものになったという自信があります。現時点でできることはすべて入れられたと思います。すごく欲張ったな、って(笑)」(犬飼氏)
こだわり抜いた黒鏡面がユーザーにもたらすもの
もう1つのデザインコンセプト「REAL BLACK」。冒頭でもPIXUSが10周年を迎えたことに触れたが、黒鏡面を前面に押し出した理由に、次世代へと向かう商品として「おっ、変わったな」という認知や驚きをもたらそうとしたことは想像するに難しくない。実際のところ、どうだったのか。
「REAL BLACKでは、見た目が黒いというだけではなく、そこにはユーザーに提供できる本質的な価値があると考えました。頭にREALを付けたのは、こういった思いが強く表れているからです」(島村氏)
「今回、大きく変えたいという思いは強くありました。しかし、プリンターとしての機能が変わらないのに、見た目だけ黒くしたのでは薄っぺらい。やるからにはサティスファクション、商品を選んでもらったユーザーにさらなる満足を抱いてほしい。その両者が両立する着地点がこの外観でした」(犬飼氏)
同社では、これまでの製品で最も濃度の高い黒を実現するために、黒が最も映える材料の選定や、調色のために多くのサンプル塗料を集めたという。では、そこからユーザーが得られる体験とは何だろうか。島村氏はしばらく悩んだ後、こう切り出した。
「数字では計れないし、言葉で説明するのも難しいかもしれません。黒という色そのものだけでなく、部品のフラットネスや鏡面の光沢度があいまって感性に訴えるものができたと思います。高級感もその1つでしょうか。鏡面加工でピカピカにしても、真っ黒でないと深みが足りない。黒を濃くすることで、周りのものがきれいに映り込んで、インテリアとの調和がより高くなったと思っています」
こればかりは実機を前にして、その何かを感じ取ってもらうよりほかないようだ。後編では、ユーザーインタビューやデザイン合宿の様子を振り返りながら、デザインモックを作ってこだわり抜いた開発過程を紹介したい。
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