「トヨタ、残業解禁へ」のウラにあるもの(2/2 ページ)
トヨタ自動車の人材育成を目的とした残業解禁の記事が、ある日の日経のトップを飾った。こんな当たり前のことがニュースになるのは、それはさすがトヨタ、日本へのインパクトの大きさからか。だが、そもそも一律残業禁止などおかしな話が出るのは、金融恐慌のせいだけではなく、企業の支出やコストに対する誤った考えがあるからではないだろか。
コストのとらえ方の誤り
人材や人材育成に投資するのは当たり前といえば当たり前のことなのだが、残業代や出張費、教育研修費などは業績低迷で真っ先に削られる項目の筆頭だ。半面、「コスト削減は従業員のモチベーションを下げるのみで効果がない」というまことしやかな議論もよくささやかれる。
実際には、こうした費用を削っても、オペレーションに支障がきたさないことがほとんどであり、「予算がなければ仕事ができない」「こんな待遇や環境で仕事ができない」などと文句を言う社員に限ってたいした仕事をしていない。
企業のコスト削減を巡って、こうした行き当たりばったりの議論がまかり通るのは、コストのとらえ方が間違っているからである。税金や法定福利費など法律によって定められるものを除けば、そもそも、企業にはコストなんてものは存在しない。存在してはならない。企業のあらゆる支出は、事業で収益をあげるための投資でなければならない。
これは間接部門の人件費や経費にも当てはまる。間接部門といえども、企業の構成要素である以上、その機能は何らかの形で事業収益の計上に貢献していなければならない。
投資としての企業の支出には、さまざまな回収の仕方がある。短期的に回収するのか、長期的に回収するのかといった時間の違いや、売り上げとして、時間短縮として、信用として、コスト低減による利益として、従業員の士気向上としてなど、回収の方法もたくさんある。
費用をコストではなく、投資ととらえ直すと、一律にコストを削って必要な投資まで抑えてしまうという安直な間違いは犯さなくなる。リターンを生まないもの、ほかの投資に比べて収益への貢献度が低い費用については、ちまちまそれを削るのに多大な時間(=費用)を掛けるのでなく、支出、つまりアクティビティそのものをバッサリ削ぎ落とすという大胆な発想も生まれてくる。
単純に費用を削るのは簡単だが、これでは企業が進むべき方向に進む力を失ってしまう。使える支出が限られている中で、これらのどこに投資すべきか、経営者、仕様決定者、調達・購買担当者の腕の見せどころだ。
「企業におけるあらゆる支出は投資であるべき」
「ここで使うお金はいつどういう形で回収するか」
あなたが会社で何らかの支出を行う時、もしくはコスト削減や経費削減について検討・議論する時には、これらの言葉をぜひ思い出していただきたい。(中ノ森清訓)
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