店名も商品名も消えた――スターバックスがロゴを変える意図:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
新年早々、スターバックスがロゴの変更をすると発表した。「スターバックス」という店名も「コーヒー」という商品名も取り除き、真ん中の人魚「サイレン」だけを残す大胆な決断。発表するや否や否定意見があふれたが、そのウラにはスターバックスの経営上のロジカルな選択があった。
サイレンの物語
ロゴ変更のウラには経営上のロジカルな選択があった。それはスタバという文化を考えるとちょっと残念。いや待て。実はエモーショナルな面もある。そもそもロゴの人魚、サイレンはどういう意味を持っているのだろうか?
40年前、スタバの創業者は創業するコーヒー店にどんなロゴがいいか、シアトル港のルーツとコーヒーに関する海運書を読みあさった。その中にあった16世紀のノルウェーの木版画に、2本の尾を持つ人魚、サイレンが描かれていた。サイレンは創業者を海という市場に引きずり込んだ。
経営体が変わり海外へ展開しても、サイレンは生き残り、その示す行方に向かってスターバックスは船(経営)をこぐ。ロゴをサイレンだけにしたのは「原点の原点に立ち返る」いう意味なのだ。
スターバックス体験
店舗ビジネスとは行動様式の販売である。消費者に行動様式を刷り込んだ者が勝つ。
日本では銀座の角の立ち食いで始まったマクドナルド。ファスト(早く手軽)に食べる文化を根付かせた。セブン-イレブンは便利な品揃えで、朝から夜までの多様なライフスタイルを支えた。スターバックスは第三の場所として、くつろぎや気分転換、集中思考の場を提供してきた。
だから私はワインやビールを出すスタバは感心しないし、ティーラテさえ「まったりしたくないんだよ」と思う。苦いコーヒーのスタバが落ち着く。ロゴを変えても飲料を増やしても、そこは変えないでほしい。
製品を増やすのは簡単だが、行動様式を増やすのは至難のわざである。薄めたり、牛乳を混ぜるのとは違う。簡単にするべきでないと思う。
カフェチェーンにとって拡張路線は唯一の解ではない。サイレンの国ノルウェーは、ヴァイキングで欧州を席巻した後、黒死病で亡びた。そんな歴史を繰り返さないことを祈りたい。
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