若手社員に欠けている“あこがれモデル”(3/3 ページ)
若手社員への研修で「あこがれるモデル」について聞いたところ、なかなか答えられない人が増えているという筆者。意欲を湧き起こし、方向性を与える「あこがれる」気持ちがなくなってきていることは、社会にとってマイナスだといいます。
個々が内面を掘り起こすことでしか世の中は善く変わらない
私はここで、日本のサラリーマンが「仕事を怠けている」と言っているのではありません。「自由を生かすことを怠けているのではないか」と言っているのです。私たちはそれこそ残業の日々です。うつ病が社会問題化するほど、ストレスもさまざまに抱えています。その面ではよく働いています。
しかし、私たちが気付かねばならないのは、その働き過ぎは、フロムの指摘する“自由の重荷から逃れた新しい依存と従属”によって引き起こされているものではないかということです。
私たちは、自分の仕事のあり方を決める自由を手にしています。そして、組織のあり方、事業のあり方、資本主義のあり方も自分たちで決められる自由を持っています。しかし、その正しい解を見つけ出し、実現するには相当の努力がいるので、それは遠回しにしたり、誰かがやってくれるだろうことを期待して、とりあえず目先の自己の利益確保だけを考えて、現状体制に依存と従属をしたりするわけです。
多少の愚痴や問題はあるけれど、その依存と従属の仕事で、毎月、お給料が振り込まれ、何となく生活が回っていくのであれば、ことさらに自由を使いこなす必要もない。まさに丸山の言う「アームチェア」的な居心地に身を置くことができれば、そこから立ち上がりたくなくなる状態が生まれる───私には、「あこがれモデル」を探せなくなった社員たちの姿をそこに見るような気がします。
かといって、私はこうしたことを批評するだけで終わりたくはありません(私だって、自慢できる20代を過ごしたわけではありません)。しかし、私の目の前には、そうした問題の解決に身を投げる大海原が広がっています。ですから私は、守られた環境のサラリーマン生活にピリオドを打ち、独立して教育事業への道を歩み始めました。自分の自由をもっと生かしてみようと思ったのです。
「世の中を悪い方向に変えるにはマス情報で事足りるが、世の中を善い方向に変えるには1人1人の内面を掘り起こしていかなければならない」 ──これは私が大手出版社に勤めて得た最大の収穫です。
そうして今は、日本の企業・自治体の第一線で働く1人1人と、学びの場を通して対話や思索を交える仕事をやっています。目下の課題の1つは、「あこがれを抱けなくなりつつある若年層社員に、どうすれば思考の刺激を与えられるのか」。そもそも『あこがれモデルを探せ』は、働く目的を考える補助ワークでしたが、その補助ワークの補助ワークが必要になってきたという状況です。しかしそれもやりがいのある仕事です。
今の仕事は、日本のビジネスパーソンの「心持ちの先端を感じ取る」仕事ですが、同時に教育を通して、そうした人たちの「心持ちの先端を作る仕事」でもあります。(村山昇)
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