「早野黙れ」と言われたけど……科学者は原発事故にどう向き合うべきか(4/4 ページ)
3月11日の東日本大震災にともない、発生した福島第一原発事故。日本科学未来館で行われたイベント「未来設計会議第2回『科学者に言いたいこと、ないですか?』」で、東京大学の早野龍五教授は、科学者の本分は「データの出典を示して、解析して、公開して、議論することである」という思いのもと、情報を発信し続けていると語った。
現在の関心は内部被ばく
早野 こういうことをずっとやってきて、空間線量についてはだんだん分かってきたのですが、内部被ばくの実態はよく分からないことが気になっていました。
次画像はウクライナのホールボディカウンター研究所のWebサイトに貼ってあるグラフなのですが、ウクライナでは事故から10年経ってから内部被ばくが増えているということが分かります。
日本では今、どうなっているのか。今後、内部被ばくが増える危険性があるのかないのか。そういうことが気になったので、内部被ばくの状況を大規模に調べるには給食センターの食事を調べるのがいいということで、まず「給食一食まるごとセシウム検査」という提案をしました。かなりしつこくツイートして、ツイートするだけではなく次画像の紙を持って文科省に行き、森裕子文科副大臣に提案しました。
まだ国の施策はできつつあるところですが、喜ばしいことに多くの自治体がこれを今すでに行い、データを出し続けています。それから文科省もようやく重い腰をあげて、どういうやり方でこれを行うかを決め、予算を付けるという方向に行きました。私の提案が、国のプロジェクトになったということに非常に喜んでいます。
内部被ばくを調べるためには、ホールボディカウンター※が非常に重要です。3月にどれだけ放射線を浴びたかを調べることについては、若干、遅きに失したということがありますが、しかし、今でも「汚染食品を食べているかどうか」を調べる上でこれは絶対に重要です。
ところが、「どうもあちこちに入っているホールボディカウンターからまともなデータが出ていないのではないか」という疑いを持たれたお医者さんが、私のところにデータを持って駆け込んでくるということが起きています。私も南相馬市立病院のホールボディカウンターを見せていただいて、そのデータをいただいて今、解析をしています。
こんなことをやっていますが、Twitterをすることによって私の家庭生活も、研究生活も見事に破壊されました。私は実は大学では管理職なので、4月になったらやめたかったんですね。3月中にやめたかった。
私がそのころに言っていたのは「餅は餅屋である」と。私は最初に言ったように、これらの何の専門家でもありません。「餅は餅屋のはずだったのに、何で僕がいまだにこんなことをやっているんだろう。本来の餅屋はどこにいるんだろう」ということを疑問に持ちながら毎日、ただ暮らしています。
原発について勉強しない大学院生たち
講演後に行われたトークセッションや質疑応答を終えた後、早野氏は「印象的だった」という1つのエピソードについて語った。
それは今年夏、全国から素粒子や原子核といった理学分野の大学院生たちが集まるサマースクールに、レクチャーに行った時のこと。レクチャーの前に「原発はどうやって止めるか」「ゲルマニウム半導体検出器とNaI検出器とガイガーカウンターは何が違うのか」というテストをしたところ、惨憺(さんたん)たる結果だったという。
「震災から4〜5カ月経ったのに、友達や家族と会話したことはないのか。『あんた物理やっているんだってね。これどういうこと?』と必ず聞かれたんじゃないか。聞かれてその時答えられなかったら恥ずかしいと思って、勉強しなかったのか」と愕然としたという早野氏。「今後若い人を育てていくに際して、かなり心してやっていかないといけない」と締めくくった。
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