「社員の声を聞きまくれ!」がもたらした企業変革(3/3 ページ)
「社員第一、顧客第二」を唱え、目覚しい変革を遂げたインドのITアウトソーシング・サービス会社、HCLテクノロジー。ピラミッド型の組織をひっくり返すべく、CEOヴィニート・ナイアー氏がとった数々の方策は、多くの企業経営者が見落としがちな「企業変革のスイッチ」を指摘するものだ。
飛躍する会社は、社員の声を聞く会社
考えてみれば、苦境を乗り切り、飛躍する会社は、社員の声を聞く会社である。前述のサウスウエスト航空もしかり。ある時、同社が米国航空業界標準の予約システムから締め出しを受けたことがあった。予約システムに登録されないということは、自動発券ができないということ。その不便さに、旅行代理店からサウスウエストに苦情が殺到した。
創設者のハーブ・ケレハーは、早速この解決策について社員の意見を仰いだところ、のちに同社を有名にした「チケットレス・システム」が社員の声から生まれたという。それもそのはず。ハーブ・ケレハーをはじめ同社の経営陣は、常日頃から社員の声を奨励し、社員からのメールにはCEOであろうと1週間以内に答えるという習慣を実践していたらしい。このような姿勢が、社員のやる気と責任感を高め、自主的な価値創造活動へと社員を駆り立てていたのである。
かのザッポスも、社員の声を聞くことに関しては極めて貪欲である。ザッポスでは略称「ハピネス・サーベイ」と呼ばれる社員意識調査を毎月行っている。社員の「幸福度」を測定するためのサーベイで質問は5問。3つの選択肢の中から1つを選ぶという簡単なもので、「5秒間でできる」というのが売りのポイントである。
サーベイの集計結果は全社員にメール送信される。また、自由コメント欄もあり、社内の「幸福度」を向上させるための提案や改善点を自由に書き込める。寄せられた提案には、しかるべき部門/部署/役職の担当者からもれなく返答があるという。
また、ザッポスの場合、社員の声を聞く仕組みはサーベイだけに限らない。サウスウエスト航空と同様、社員の誰もがCEOを含む経営陣の誰にでも直接メールを送り、意見を述べたり、質問をしたりすることができる。また、「何でも聞いてみよう」と題する社内ニュースレターがあり、社員から寄せられた質問と経営陣の回答が毎月全社員に送信される。さらに、ザッポスの壁のないオフィスでは、社員の誰もがCEOの席におもむき、“もの申す”ことが可能である。
かのウォルマートも「オープン・ドア・ポリシー」をうたっていて、創設者であるサム・ウォルトンの時代からの伝統らしいが、サウスウエスト航空やザッポスとはかなりプロセスが異なり、意見や質問は必ず正式な命令系統に則って行われなくてはならない。つまり、意見や質問があったらまず行くべきは直属の上司のところであり、垣根を跳び越えてCEOや部門長にいきなり直訴することはできないということである。
組織が大きくなればなるほど、社員の声がトップに届きにくくなるのが常だが、ともに机を並べて働いているから、「声が聞こえている」と思ったらそれは間違いだ。たいていの職場は、信頼関係の破たんを根本的な問題として抱えている。毎日、顔を合わせているからといって、一体どれだけの社員が上司や同僚に「本音」で話せているだろうか。だからこそ、サーベイなどの仕組みは、安全な環境のもとで自由にもの申す機会を社員に与えるのである。
「人は自分のしていることに情熱と責任を感じる時、会社を変革できるだけでなく、自分自身をも変革できる」というナイアー氏の言葉は経営者としての私の心にも強く響いた。社員ひとりひとりが、「自分の」会社であり、「自分が」会社を変えることができると信じた時、はかり知れない底力を発揮することができる。
「市場縮小時代」などと言われるが、勝算ゼロの市場においても飛躍を続ける企業においては、社員が経営の主役なのである。社員の英知や情熱の邪魔をせず、社員がその責任と権限をまっとうする環境を作ること。それこそが経営者の仕事なのだと、同書を読んで改めて確信させられた。(石塚しのぶ)
関連記事
- アマゾンに負けるな! イーベイに見る米国ネット通販ルネッサンス
「ネット・オークション」のパイオニアであり、ネット通販初期の米国で一世を風靡したイーベイ。近年はアマゾンに押され気味だが、「ソーシャル」「ローカル」「モバイル」をキーワードに巻き返しを図っている! - 天下のウォルマートも苦戦するアマゾンの脅威
米国第2位のブックストア・チェーン、ボーダーズが会社更生法による保護を申請。業界第2位でも倒産に追い込まれる市場波乱の背景にはアマゾンの影があるという。そして、天下のウォルマートも無傷ではないようだ。 - NIKEフラッグシップストア原宿が目指す「店舗2.0」
「ココカラ変ワル」をキーワードに創造されたという「NIKEフラッグシップストア原宿」。来店する顧客を「個」ととらえ、向かい合おうとしている姿から「店舗2.0」への挑戦を垣間見た。
関連リンク
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.