アップルがつまらなくなったから僕は辞めた:僕は、だれの真似もしない(4/4 ページ)
前刀氏は、アップルに加わったときから「日本市場を建て直して3年以内に辞める」と決めていたという。どこまでいってもアップルはジョブズの会社。「こんなことやってる場合じゃない」と。
「3年以内に辞める」と決めていた
――そんなアップルを前刀さんは2006年には辞められました。当時を振り返って、本書では「アップルがつまらなくなったから」と理由を述べられているのも印象的です。
前刀氏: アップルあるいはジョブズファンの人達からすればあり得ないかもしれないですね。生でスティーブと会ったことがあるのが自慢話になったりしますが、僕は月一でスティーブと会議(10人のマーケティングエグゼクティブ会議)をしてましたから。
そういう意味では貴重な体験ではありました。でも、自分の自己実現を考えるとアップルを離れるということは自然なことでした。最初に手にしたパソコンもアップルでしたし、もちろん好きな会社でしたが、アップルに加わったときから「日本市場を建て直して3年以内に辞める」と決めていました。
思いの外、iPod miniをきっかけにそれは上手くいって、日経のブランド調査なんかでも一気にランクが上がったりしました。そうなると追い風ばかりが吹いてきて、周囲からも「凄いですね」としか言われない。
――普通はそんな状況で辞めようとは思わないですよね。
前刀氏: サラリーマン的にはとても楽だったと思います。そのポジションにいればどんどん業績も上がるし、もうiPhoneだって目前に控えていたわけですから。あのままいたらストックオプションで今ごろ億万長者ですよ(笑)。
でも、僕はどんどんつまらなくなってしまった。応援しようと思って入った会社だけど、どこまでいってもアップルはスティーブの会社だし、ゼロからモノを作ることはできない。会社で与えられたオフィスに座っていても、もう居ても立ってもいられなくなってしまったんです。「こんなことやってる場合じゃない」と。
――日本市場を建て直したことで、アップルには十分恩義を果たした。次は自己実現、自分のチャレンジだ、と。
前刀氏: そうです。そういう意味でもスティーブにはもっと生きていてほしかった。もしもアップルがまたピンチになったら――実際、彼がいなくなってから製品の打ち出し方が機能寄りになってきているのが気になっているのですが――「しょうがないな、また手伝うよ!」って言えるくらい、スティーブに頑張っているところをみてほしかった。ホントにそれがすごく残念なんです。
ウォルト・ディズニーほか、井深さん(井深大元会長)も盛田さん(盛田昭夫元社長)ももういない中、偉大な創業者に自分がそう言えたかもしれない、ほとんど唯一の会社だったわけですから。
こうしてアップルを離れた前刀氏は、ソニーからアップルに至る経験を踏まえつつ日本の復権にはイノベーションが欠かせないと確信し、そのために必要なマインドセットを広げる活動に注力することになる。次回は、前刀氏が考えるイノベーションとそのために必要な要素について話を聞く。
著者紹介:まつもとあつし
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)、『できるポケット+ Gmail 改訂版』(インプレスジャパン)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。2011年9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。
- Twitter:@a_matsumoto
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