料理で社会を変える!“平成の魯山人”の挑戦:郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)
食に関する直球記事が次々に放たれる。それは「1人」の書き手から。その人は、「日本の食が完全に乱れているので第三者機関を創りたかったんです」という。
協会の活動は社会ネットワークづくり
「日本の食が完全に乱れているので第三者機関を創りたかったんです」と松田さんは切り出す。
「例えば一部の養鶏業者はストレスフリーで安心・安全という。でも実態は給食の残飯を混ぜたり、死骸を放置したりしたまま。協会の事務所から山を越えたところにも養鶏場がありますが、風向きによっては悪臭で近くを歩けません。そんな環境で育った卵や肉が安心、安全といえるでしょうか?
美味しい、手づくりといいますが、みんな主観による情報ですよ。例えば香川県では1本50センチのアスパラガスを推奨する。大きすぎてレストランは使いにくい。消費者無視の農業はもうたくさんです」
大手企業の食だけでなく、農業者や畜産業者から乱れている。そこを協会という活動を通じて食を正したいのだ。
「協会では作物を認証しています。認証数は現在31品目、水質検査で問題がないこと、標準ミネラル量が文科省の日本食品標準成分表以上であること、TPPに対応するため品質保持期間は通常の2倍以上が条件です。海外に出荷するには、トマトなら常温で2週間。味の感応検査も協会で行います」
協会活動に「いいね!」をするのは個人だけでなく法人もいる。食分野の専門家もいれば投資家もいる。レストランオーナーも飲食業をする不動産業もいる。一流レストランのシェフも数多いので販売チャネルもある。食のサプライチェーン一式ができる、社会的なネットワークを協会は構築しつつある。
われわれは誠実な経済活動をしてきたか?
協会設立の背景を聞くと、うなってしまった。松田さんは大学講師の後、新商品開発やアーティスト活動やギャラリーをしてきた。そして祖母の手製料理の原点に立ち戻り、自然食材で独創の料理を創作するオーナーシェフを務め、東京や海外の食通の注目を集めた。
その食材の仕入れで農家をまわる中、生産技術が途切れ、安く買いたたかれ余れば捨てる、そんな農家の窮状を知り、技術の伝承と雇用を生み出すための食品開発に取り組んだ。それがラー油だった。
「大ヒットした後、自前の工場計画を作ったのが2010年11月。ところが商取引と物流の分析から『何かがおかしい』という不安感を抱き、計画を白紙に戻しました。そして3.11が起きました。テレビから流れる映像を見た瞬間、物販事業の撤退を決断して、生産・販売を終了したのが5月末。そして協会を6月に立ち上げました」
これから人びとは流行を追うのをやめ、根本的な生き方を模索する――という読みと、食で社会を変える使命感が結びついてジャパンローカルフード協会の活動となった。
「カン」だけではない。事業化する企業者としての「ソロバン勘定」もある。さらにソーシャルネットワークを使う「戦略」もある。だが、それらを接着するのは「使命感」だ。
私は、そこに私も含めた中年以上の社会人の人生の縮図を見る。「われわれのしてきた経済活動は誠実だったのか?」
バブル消費、消えては現れる流行品開発。売れた者勝ちのマーケティング。誰か(中小企業や開発途上国)に皺寄せのコストダウン。がんばった結果は長い不況トンネルであり、リストラ、若年の無職層、内向きの社会。食の分野でも大量生産・大量廃棄、添加物や遺伝子組み換え食品の使用、伝承や技術の断絶……。
私自身、自分の仕事に誠実さを取り入れたいともがいている。一方で食っていかなきゃならない現実もある。ジャパンローカルフード協会という活動にも、ソロバン勘定と懺悔が入り混じる。そこには“ホンネの誠実”がある。
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