暮らしの中から生まれる創造、あるタイポグラフィデザイナーの場合:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
ハウスインダストリーズの仕事には生きかたの理想形がある。日々の暮らしの中で仕事が生まれ、創造が生まれる。それは人の本来の姿でもある。
フォントを楽しみ、仕事が生まれる
イベントに続いて、Cafe & Meal MUJIで行われたアンディさんのトークは、温かいやさしい時間だった。彼の人柄が出ていた。スライドで紹介された彼のデラウエア(米国)の自宅は森の中にある。1960年代後半に建てられたオールウッドのデッキハウスは、数ブロック離れた地に引っ越してきたアンディさんがひと目惚れして買った(引越先にはわずか1週間しか住まなかった)。
愛する家には、商品プロトタイプとフォントと手づくりがいっぱいある。文字「H」をデザインして気に入り、ポットやヘルメット、置物にも描いた。植木鉢にはチャールズ・イームズ(米国の建築家、デザイナー)さんのフォント数字をステンシルした(ハーマンミラーのイームズテーブル商品化からの産物)。
「まな板を作って!」という妻の願いでつくったのは「フォントのまな板」。使うのが惜しくてオブジェになったそうだ。こけしを集める娘の趣味から「こけしの積み木」が生まれた。
アンディさんの暮らしかた。暮らし>発想>仕事>手づくり>教育>暮らし>仕事……。暮らしの中からフォントや商品がクリエイトされる。インスピレーションを文字にする。文字が暮らしに入り込む。暮らしが踊りだす。
思えばFound MUJIの店舗は、世界中から「見出された良いもの」を集める。日本の生活品質に合わせて作ってもらったものを並べる。そのコンセプトと共鳴しあっている。
断舎離に片づけ、日本の暮らしはどうだろう?
ひるがえって私たちの生活は、「断舎離」や「片づけのときめき」など、家を楽しむどころじゃない。家の片付けに精一杯。モノを振り払いたい。モノから離れたい。そんなことさえビジネスになっている。
だが日本人は元来暮らしを楽しむ民族である。自然素材を使って暮らしを作ってきた。家の中にはさまざまな暮らしの工夫があった。例えば木や土の器をつくる。和紙で囲う。柱に背を刻んだり……。暮らしを楽しんでいた。ハウス(暮らし)とインダストリー(仕事)を1つにするスタイルを、自分の生活に入れていきたいと感じた。
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