進む若年層の軽自動車シフト――今こそ「軽自動車」の定義を見直すべきだ:神尾寿の時事日想(3/3 ページ)
小型車へのダウンサイジングという世界的な傾向は、日本では「軽自動車シフト」という形で進んでいる。軽自動車を選ぶ若い男性が増えている今、軽自動車の排気量規制と安全基準の見直しが必要ではないだろうか。
新たなコンパクトカー市場を議論・定義する時期
国内自動車市場全体を俯瞰すると、コンシューマー向けのボリュームゾーンで「軽自動車」が従来より大きく膨らみつつある。ホンダのように自動車メーカーが軽自動車市場に大きく舵を切るのはもちろん、自動車の周辺市場にとっても拡大する軽自動車マーケットの需要をどのように取り込むかが重要になるだろう。国内の自動車ビジネスにおいて、軽自動車が無視できない存在になっていくのは間違いない。
他方で、軽自動車の市場が拡大すればするほど、「軽自動車の在り方」にも見直しが必要だと筆者は考える。クルマのダウンサイジングそれ自体は望ましい方向であり、この分野で日本企業が強みを持つことはよいことだ。グローバルでも、今後はA/Bセグメントの小型車は成長市場になる。しかし、だからこそ、軽自動車の在り方が再定義されなければならないのだ。
この中でとりわけ重要なのが、軽自動車の排気量規制と安全基準の見直しだろう。
現在の軽自動車は排気量660cc以下という制限があるが、燃費向上で考えるとこれはデメリットの方が大きい。Aセグメントのサイズ・重量では、900〜1000cc程度の排気量の方がバランスがよく実用燃費もよくなる。今後の技術革新を受け入れやすくするためにも、軽自動車は660cc以下という制限を取り払い、実用燃費もしくはCo2排出量ベースでの規制に切り替えた方が現実的なのである。
また、安全基準の面はさらに重要だ。1998年に行われた規格改定で軽自動車の衝突安全基準は以前より高くなったが、事故抑止の先進安全技術の搭載や、事故を緊急回避するために必要な運動性能という点では、軽自動車は普通車よりも大きく見劣りしている。軽自動車が今後も増えていくことを考えると、トータルでの安全確保に向けた新たな安全基準が必要だ。
少し暴論を述べれば、筆者は日本の「軽自動車」という区分けそのものをなくした方がいいと考えている。軽自動車と普通車のコンパクトカーを合流させて、「小型車 (コンパクトカー)」という新たな区分けを作り、グローバルのA/Bセグメントのトレンドに沿った形の燃費規制と安全基準を設ける。一方で、サイズ制限は大幅に緩和し、市場ニーズによる選別に委ねる。その上で、これまでの軽自動車と同等の税制優遇・維持費の安さを実現すべきと考えるのだ。
日本が軽自動車で培ってきた"小さいクルマ"作りの技術・ノウハウは、グローバルな基準で再定義されれば、必ず日本の自動車産業の強みになる。国内市場全体で軽自動車シフトが進む中で、この市場の動きを産業の強みにつなげられるような制度や仕組み作りも、また重要である。
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