著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)
パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。
アジア新興国市場への進出に関しての話をどう伝えようかと考え、メディアなどで扱われた事例を使ってみることにする(これなら守秘義務はないので)。
BSジャパンの「日経スペシャル アジアの風 〜小さな挑戦者たち」はお気に入りの番組だったが、3月末で終了してしまい残念だ。しかし、いずれ復活するかもしれないし、他にもアジアでのビジネスを伝える番組は今後ますます増えると期待している。
この「アジアの風」で2月9日に採り上げられたのが、中野鉄工所の「エアハブ」というユニークな自転車部品(参照リンク)。何とパンクの心配を大幅に減らすハブ(車輪と車体を繋げる部分)である。ハブ自体に空気入れの機能を持たせ、1日に約200メートル走るだけで自転車のタイヤは適正気圧を維持するという画期的なアイディアである。適正気圧を維持できていると、パンクの可能性は激減する。
この製品の開発背景に少し触れよう。格安の中国製自転車に押され、国内生産は今やピーク時の10分の1以下。そんな危機を突破すべく試行錯誤の末に完成した同社のエアハブは日本の大手自転車メーカーに採用され、高価格部品でありながらも販売台数は7万台を突破! ……と、ここまでは部品メーカーの復活譚である。
さてこの勢いを駆って、同社は伸びゆく台湾市場に打って出ようと考えた。なぜ台湾か? 世界的メーカーが集積する一大製造拠点で、日本や欧米などに輸出をしているからである。ここまでは頷けるのだが、ここからは「?」が付き始める。
番組では同社の「アジア進出」を応援すべく、台湾市場および韓国市場に詳しい現地コンサルタントに尋ねていた。2人ともそれぞれの市場特性を考えて、「コスト抑制が必要」などと一生懸命にアドバイスするのだが、番組制作者の論点設定自体が間違っている。「生産拠点としてのアジア」なのか、「消費市場としてのアジア」なのか、混同してはいけない。
こうした高機能品が真っ先に受け容れられるのは、自転車先進国である欧州市場である。台湾メーカーは欧州にも輸出しているから、台湾の自転車メーカーに売り込みをすること自体は間違っていない。しかし台湾や韓国は高級自転車の消費市場としてはモノの数にも入らない。これらの市場に受け容れられるような商品手直しをしてもあまり意味はない。
それよりもむしろ欧州の地元メーカーに売り込みすべきだろう。その際、欧州市場の特性を独自に調査することも、売り込みの際の説得力を増すためには効果的かもしれない。努力の方向性を間違わないことだ。何でもかんでも「これからはアジア市場」というのは大間違いだ。(日沖博道)
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