人事担当者と「社史」のキケンな関係:サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/3 ページ)
最近「会社の歴史を従業員に伝えたい」という相談を、複数の人事担当者から受けたというサカタさん。人事が急に「創業者の思いを……」などと言いだしたら注意だ、というその理由は?
組織への帰属意識の低下を懸念している人事は少なくない
こういう話をしたがる人事には共通点があります。それは「自社で働くことにプライドを持ってほしい」「今の職場にいることを素晴らしいと認識してほしい」と心から思っていて、信じて疑わないタイプである、という点です。そのために、組織の一員として働く喜びや、そこに属していることの素晴らしさを「可視化する」仕組みを熱心に模索し、作り出そうとします。
一例を挙げると、素晴らしいサービスを提供しているホテルがあって、そこで働く人が「このホテルで働いているというプライドが、自分たちの行動の源泉であり、支えになっている」という言葉が満載されている書籍を読んで、それを真に受けてしまって、自社でもそれが応用できないかとアクションをしてしまうような人たちなのです。皆さんの周囲にも、もしかしたらいるかもしれません。
彼らの目を通して見ると「仕事だからやっている」「言われたことはこなしている」「自社のことを好きとか嫌いとか考えたことがない」というタイプの従業員は、歯がゆくなると同時に、不安になってしまうのです。組織への帰属意識が低い、仕事をどこか他人事のように見ている、働くことを損得で考えてしまって使命感が薄い……そう評価してしまう。結果として「そういう人を減らせば、企業としてもっと強く(この言葉も意味不明ですが、好んで使われるのでそのままここでも使用しています)なるはずだ」と、帰属意識を高める工夫を一生懸命したがるのです。
もう一つ、多くの従業員に対して「自社で働く喜びを実感させたい」という思いが、このタイプの人事にはあるようです。長い間社会に奉仕することで評価されてきた企業の一員であるとか、技術力で認められてきた組織のメンバーとして働けることを大事にしてほしいと、言い方は悪いのですが“ことさら押し付けて”きます。その教育が十分でないから、働く喜びを感じられなくなっている、改善するためには「社史教育を」という図式が、頭に思い浮かんでしまう人事が、意外にいるのです。ここまで読んできて「何という勘違いをしているのだ、その人事は」とあきれた人も少なくないでしょう。
なぜ帰属意識が低いのか? 分かっているのに目をつぶる理由
組織への帰属意識が低くなったり、仕事への当事者意識がなかったりする原因は、その組織で働いているという誇りが足りないせいである可能性は否定しません。が、それは歴史や過去の遺産を知らないから、という理由ではないでしょう。例えば、仕事そのものがとてもプライドを持ってできる内容のものではなかったり、組織風土に問題があったり、職場環境がイマイチだったりという部分に原因があるはずです。そもそも、組織への帰属意識が低い、もしくは、働くということ自体に喜びを感じにくいタイプの従業員を採用してしまっているケースもあるでしょう。原因はもっと別のところにあることを、社史を従業員にレクチャーしたいと言い出している人事も理解しているはずです。もっと根本的なところに原因はあるにもかかわらず、そこには「手が付けられない」ので、まずは「できることから」と、いまの職場を「素晴らしいと感じさせる手だて」を打とうとしてしまうのです。
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