人事担当者と「社史」のキケンな関係:サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(3/3 ページ)
最近「会社の歴史を従業員に伝えたい」という相談を、複数の人事担当者から受けたというサカタさん。人事が急に「創業者の思いを……」などと言いだしたら注意だ、というその理由は?
このタイプの人事がいる企業は、新卒採用が得意な企業であることも見逃せないポイントです。就活生は「仕事をした経験がない」ので、その企業の過去を知り、その過去の延長線上にある組織の一員になることは「素晴らしいことで、誇りに思うべきだ」と言われると、真に受けてしまうことも少なくないのです。
特に新卒に関しては「どんな仕事を、企業はあなたたちに期待している」というやり取りは、きわめて抽象度の高い(具体的ではない)話になりがちです。会社説明会で内容は薄いけれども感動的な動画を流したり、事業などを説明する入社案内をドキュメンタリー番組タッチで作成したりすることで、組織への帰属意識を醸成することを日常茶飯事としてやっているケースも見受けられます。ただ、中途入社の人たちに同じ手法は通用しません。
本来、その組織に属しているという喜びは、仕事が面白かったり、誇りを持てる承認欲求が満たされる瞬間があったり、一緒に働く人たちが魅力的だったり、未来予想図が共感できたりといった、企業の本質的な部分によるものが大きいはずです。しかし、組織の風通しを良くする、プライドを持って仕事に打ち込めるような工夫をする、待遇などを含めて職場環境を改善する、といった作業は「やりましょう」と声を出しても一朝一夕にできるものではなく、調整をする部署が多岐にわたったり、予算の確保が膨大だったりします。そこで「簡単に」かつ「部署内」で調整がつく「会社の歴史教育」という手段に行き着いたとしたら……それでは問題はなにも解決されないし、すべてを覆い隠したままになってしまいます。
裏を返せばという言い方も変ですが、皆さんの会社の人事セクションが「社史」であったり、創業者の「思い」を、いまさら感満載、かつ唐突に持ち出したりしたら、自分の職場はボタンを掛け違えたままで、何かをしようとしていると勘ぐってもいいのかもしれません。少しばかりご注意を。
リクエストがあったので(?)最後にイタリアのごはん写真を。左はローマの「ラ・カルボナーラ」というお店で食べたカルボナーラ。右はトリノに本店がある有名チェーン店「GROM」のジェラート。ときどき新宿店に行くのですが、ローマで食べたほうがもっとおいしく感じた……のは多分気のせい
関連記事
- サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:あなたの仕事は、誰かの「困った」を「良かった」に変えていますか?
子どもの頃「大人になったら何になりたい?」と聞かれたことはありませんでしたか。また就活生から「働くってどういうこと?」と問われたら、あなたは何と答えるでしょうか。今回は“仕事の本質”について考えます。 - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:「夢を持て」という言葉が罪作りな理由
「夢を持つことは大切だ」さらに「願えばかなう」――そう言う人は多いですが、自分の将来について考え始めている子どもに対してそう言うことは罪作りだとサカタさんは言います。その理由は……。 - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:「いつかは転職したい」では転職できない理由
「いつかは転職したい」――長く働いているビジネスパーソンなら、1回くらいは考えたことがあると思います。しかし仕事柄転職相談を頻繁に受けるサカタさんは「それでは転職できない」といいます。転職市場において、もっとも大事な価値とは? - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:子どもが就職できるか心配――そんな「お父さんのための就活講座」
昨今、テレビやビジネス誌などでは「親子就活」特集が花盛りです。「親が就活に参加するの?」と批判的な人も、いざ自分の息子や娘が就活となればやはり心配なもの。サカタカツミ流親子就活講座、今週は「お父さん編」をお送りします。 - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:「あなたの挫折経験を教えてください」と人事が質問する理由
「挫折経験」「挫折」「挫折の経験」……本連載の筆者、サカタさんのブログに就活生がたどり着く検索ワードで圧倒的に多いのが「挫折」だそう。なぜそんなに挫折について知りたいのでしょうか? そこには意外な事情がありました。 - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:中高年を襲う「新しい肩たたき」の手口が巧妙になっている
ネットで「こういう仕打ちを受けて、辞めるように追い込まれた」という悲痛な声を聞くことがあります。整理解雇ができない企業の“肩たたき”テクニックは年々巧妙化しており、肩書きがある人でも、安泰ということはありません。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.