コカ・コーラ ゼロの「思いっきり味わおう」に隠された「選択」:それゆけ! カナモリさん(3/3 ページ)
カロリーゼロに続くヒットとなった特保コーラ。王者コカ・コーラが「メッツコーラ」、「ペプシスペシャル」の拓いた市場を取りに行かなかった理由とは。カナモリさん、コカ・コーラに行く、の巻。
強みのチャネルとブランド力を生かし、真正面から売る
では、特保にはないコカ・コーラ ゼロの魅力を伝えるにはどのような訴求をすべきか。
「それには、炭酸飲料本来の飲み方を思い出させることが必要だと考えた」(同)。特保のように食事のシーンに特化するのではなく、「リーダーブランドとしてあらゆるシーンで飲まれ、共感されることを念頭に置いた」(同)のだという。
コカ・コーラ ゼロは至近の4年間、「ワイルドヘルス」というメッセージングを行ってきたが、これを2013年2月より「ゼロリミット 思いっきり味わおう」というメッセージに変更。市場への新たなる登場感を演出してきた。
それを6月3日より再調整し、より切り口を鮮明にしたメッセージに切り替えた。「思いっきり味わおう ゼロリミット」である。メインメッセージとサブのメッセージを入れ替えただけのように見えるが、その狙いは大きい。特保コーラとのベネフィットの違いを強調させるための結論であり、軸足の置き場所は「味=おいしさ」だ。それを明確に伝えるためなのである。
「思い切り味わおう ゼロリミット」というメッセージのキモは「また飲みたくなるという、シズル感」だという。
セレブレティとしては引き続きEXILEを起用。前CFではメンバーが氷の中から商品を取り合うような表現で登場感を演出したのに対し、今回はより具体的な飲用シーンのカットを多用し、容器が空になるまでゴクゴク飲み切る姿までを表現している。
コカ・コーラシステム(コカ・コーラグループ)には飲料業界最大の約98万台に登る自動販売機チャネルがある。そこでは、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの店頭での販売のように「ついで買い」ではなく、飲みたいと思ったときに購入する「目的買い」を最大化させることも課題となる。いずれのチャネルでも「飲みたい」と思わせるために、「ゴクゴク飲む」という表現でメッセージをつないでいるのである。
リーダー企業やブランドは、とかく「全方位戦略」を展開するのが正解だと考えられがちである。しかし戦略を決めるということは、自身の強みを最大限に生かし、リソースを分散させないこと。「やらないことを決める」ことでもある。“第3のコーラ”を選択しなかったことの成否が出るには、まだ一定の時間を要するが、このコカ・コーラ ゼロの事例は、リーダー企業の自己定義や「選択」の軌跡を追体験するうえで、学ぶべきところが多いように思う。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。Facebookでもいろいろ発言しています。
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