企業は若手社員に「我慢すること」「実行力」を求めはじめている:サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/4 ページ)
前回、若手社員が「成長したい」と言って会社を辞める現象についての記事の中で、「彼らが仕事で重視しているのはお金ではない」と書きました。彼らが求めるものと、企業側が若手に求めるものとは深刻にズレているようです。それは……。
従業員の能力を最大限発揮させるために、企業が管理したいこととは?
全国の企業2万社を対象に「事業展開の現状と今後の見通し」や「人材の育成・確保に関わるニーズ」をアンケートしたこの調査では、2割弱の企業が今後、主力事業を現在のものから転換すると回答し、また、3年以内に事業再編の予定があると答える企業が約4割もあるなど、とても興味深いデータです。
中でも、私が特に注目したのが「従業員の能力を最大限発揮させるために必要な雇用管理事項」という質問とその結果でした。
経営者側から見ているアンケートなので「最大限発揮させる」「雇用管理事項」という言い回しになっているのはさておくとして、この結果を見ていると、企業が従業員とどんな風に付き合いたいのか、どんなことを“約束”しようと考えているのか一目瞭然です。
企業が重要だと考えている事項のトップ3は「能力・成果等の詳細に見合った昇格・昇進や賃金アップ」「上司や部下のコミュニケーションや職場の人間関係の円滑化」「安定した(安心して働ける)雇用環境の整備」となっています。さらに「実際に取り組んでいるもの」のトップ3は「能力・成果等の詳細に見合った昇格・昇進や賃金アップ」「目標管理制度による職務遂行状況の評価」「安定した(安心して働ける)雇用環境の整備」の順になると。
前回の記事で紹介した若手社会人向け調査で、働く上で大切にしたいこととしてお金のことが上位にこなかったのは、日本の企業の多くが従業員の能力を最大限発揮させるためには、賃金アップや雇用環境の整備が重要と考えており、かつ、実際にそれに取り組んでいるから不満がない状態になる……という、楽観的な推測も成り立つ結果になっています。
そして、良好な職場の人間関係が大切であることは理解しているけれど、まだ手が付けられていないという現状が浮き彫りになっていることも分かるでしょう。さらに注目したいのは「本人の希望を重視した職務配置」という項目のスコアがとても低いこと。
若手社会人は自らが働く上で大切にしていることの1つに「自分の希望する仕事内容」を挙げていました(参考記事)。が、企業はそれを考慮しない、少なくとも優先順位の高いことであるとは思っていないことが、ハッキリと分かる結果です。今までも取り組んでこなかったし、これからも重要だとは思っていない。就職活動の時点では「あなたのやりたいことはなんですか? 我が社でどんなことがしたいですか?」とさんざん質問したにもかかわらず、入社後は、別に従業員がなにをしたいのか、ということには配慮しない、少なくとも「能力を最大限発揮」させるために、必要な項目ではないと認識しているのです。
企業は若手社会人に「あらゆる能力」を求めはじめている
若手社会人が働く上で大切にしたいことと、企業が従業員の能力を最大限発揮させるために企業として取り組むべきことに、一部乖離があることが、「構造変化の中での企業経営と人材のあり方に関する調査」という調査から浮かんできました。
ここで気になるのが「能力」という言葉です。辞書では「物事を成し遂げることのできる力」とあるそれは、企業から社員を見たときどういうものなのでしょうか。「正社員にこれまで求めてきた能力・資質と今後求めるもの」というデータから、それが分かります。
先の「従業員の能力を最大限発揮させるために必要な雇用管理事項」が、(好意的に解釈する)と企業から従業員に約束したいことだとしたら、この「正社員にこれまで求めてきた能力・資質と今後求めるもの」は文字通り、企業が従業員に要求したいことです。これまで求めてきた能力・資質のトップ3は「専門的な知識・技能、資格」「業務を完遂する責任感」「組織協調性(チームワーク能力)柔軟性、傾聴・対話力」となっています。
これをみて違和感を持つ社会人はいないと思います。組織の中で働く人たちに対して、企業が欲しいと思って不思議ではない能力や資質ばかりです。ただし、今後求める能力を見てみると、「組織協調性」に代わり、「リーダーシップ、統率・実行力」がランクインしてきているのが興味深いところです。
先にこの調査の概要について触れた際「今後企業は事業の大きな変化が起きる」と予測していることを書きました。平たく言うと、企業は「激動のビジネス社会」を乗り切るためには、みんなで仲良く働くということ以上に、自ら率先して行動することを従業員に期待しているということです。ここでも、若手社会人が働く上で大切にしている「良好な職場の人間関係」は、打ち砕かれそうな雰囲気になってきました。
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