日本はまだまだ甘い! 世界のブラック企業の現実:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
世界では仕事が原因で15秒に1人の割合で死者が発生する。日本のブラック企業なんて世界基準では生ぬるいのではないか? リスクがない仕事なんてはじめからないのだ。
日給10ドルの仕事で強盗に襲われる
世界にはどんな過酷な仕事があるのか。世界労働人権研究所のチャールズ・カーナガン所長にいわせれば、現在、最も危険だと思われる仕事はパキスタンやバングラデシュの船舶解体業。安全装置もなくほぼ普段着のままで巨大な船舶を解体し死傷者が続出、アスベストによる健康被害も報告されている。雇い主は何ら対策を行わず、仕事の機会を与えるだけ喜べと開き直る者もいると聞く。「ブラック」どころの話ではない。
危険という意味では、中米のグアテマラでは2005年から1400人のバス運転手が殺されている。乗客などに強盗目的で撃ち殺されるのだが、財政が逼迫(ひっぱく)している運営側も大した対策ができないでいる。給料は日給10ドルだが、他に仕事がないためドライバーを続けざるを得ない人が多い。
国家の情勢や文化・教育または生活環境の違いがあるのはいうまでもない。ただこうした状況は、程度の差はあれど極貧国や途上国だけの出来事とはいいきれないのだ。先進国の身近な仕事も過酷さをはらんでいる。
先日、米カリフォルニア州で学校カウンセラーをしている女性がこんな話をしてくれた。「高校を回ると教師が暴力を受けているケースをよく聞く。米国は難民や移民を多く受け入れているので、学校内でもそういう子供が問題を起こすことが多く、教師が噛み付かれたり足を思いっきり踏みつけられたりして怪我をするケースが後を絶たない」
彼女はさらに続ける。「そもそも学校は多くの子供が通うので風邪などもまん延しやすく、しょっちゅう風邪をもらう教師が多い。体調が優れなくても生徒がいるから休むわけにもいかず、肉体的にも精神的にもやられる。授業の準備だって勤務時間内には終わらない。統計なんかに出てこないけど、実態を見るとかなり大変な『労働』を強いられているんだよ」
外からは「まとも」といわれていても、こうした厳しい環境にある仕事は枚挙に暇がない……。というより、どんな仕事にだって同じようなリスクは付いて回る。失業率の高い米国では最近、無給のインターンシップなのに社員のようにこき使う企業が続出していると話題になっていた。この場合、企業は代え難い「経験」を与えているという意識でいる。それでも、そうした企業を日本でいう「ブラック」というニュアンスで呼ぶなんていうのは、筆者の知る限り聞いたことがない。
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