自殺ドキュメンタリーを作った外国人が「すぐに死にたがる日本人」を語る:伊吹太歩の時事日想(2/2 ページ)
「日本人は自殺を美しいものと考えていないか」「日本ではテレビドラマや映画、漫画が、エンターテインメントの要素として自殺を扱っている」――なぜ日本人は死にたがるのか?
自殺防止対策としてアルコール依存症対策は有効だ
『Saving 10,000』では、日本の自殺が世界と違う理由の1つに「消費者金融」の存在があると言う。2005年には、5000人の自殺者に支払われた保険金が、遺族ではなく消費者金融に直接渡っていたことを日本政府が問題視したことを紹介し、その先には「闇金」というさらに酷い高利貸しが人を自殺に追いやることもあると指摘する。
加えて、精神科医の絶対的な不足についても問題提起をしている。欧米の映画やドラマに登場することも多い精神科医によるカウンセリングは、欧米人の多くが利用する。人材不足の日本では、カウンセリングよりも、投薬や精神科への入院で済ませてしまうケースが外国の先進国などと比べて多いのだ。
その上で、ダイグナンはこうした現実を改善するヒントとして、フィンランドの例を筆者に示した。「フィンランドではかつて日本と同じくらい自殺が深刻だったが、国家レベルでさまざまな試みを行い、今では改善した。1つにはアルコール依存症対策だ。フィンランドでは自殺者の50%の血液から高濃度のアルコールが検出されている。アルコールの影響をあまり問題視しない日本は、アルコール依存やギャンブル依存などの問題から取り組みを始めることもできる」
ただ残念なことに、日本ではフィンランドのように自殺の原因を突き止める制度が確立していない。日本では自殺者が発見されても、よほど不自然な場合でない限り、解剖されたり血液を調べられたりするケースは少ない。要するに、酒に依存していて勢いで死亡したとしても、もっと言うと第三者が睡眠薬を盛って自殺のようにみせて殺しても分からないケースも出てくるということだ。
こう考えると、ダイグナンの努力が報われるには大きな壁をいくつも越えなければいけないとも言える。悲しいことだが、それが日本の現実だ。
きっかけは隣人の自殺だった
そもそもダイグナンが日本の自殺について興味をもった最大のきっかけは、隣人の自殺だった。時間を持て余していたその年配の女性は、暇があれば彼の部屋をノックし、雑談をしたがった。その頻度が増えるにつれ、彼は居留守を使うようになった。
するとある日、また居留守を装っていたら、ドアの下からメモが入れられた。そこには彼女の携帯番号などとともに、「また近々お話ししましょう」とメッセージが添えられていた。それ以降ノックをしなくなった彼女は、その数カ月後、腐乱死体で発見された。ガス自殺だった。
自分のすぐ側で見た「日本人の自殺」から、ダイグナンは日本の自殺という社会問題に興味をもった。日本の自殺を減らすために、外国人が、外国人の視点で、できることがあるのかもれない。
世界では一般的に、日本は自殺が多い国だとみられている。ストレス、過労死、実際に自殺者数も世界基準でみても数多い。ちなみに現在、世界で自殺者による死亡者の割合が最も多い国はグリーンランド。日本は10位で、韓国は2位、中国は7位だという。
ダイグナンは日本人の自殺を何とかしたいと、日本人が見過ごしがちな問題に疑問を投げかけた。自腹を切ってドキュメンタリーを制作し、時間を割いて1年以上も自殺についての啓蒙(けいもう)活動を続けるアイルランド人の熱意に、52分間だけ耳を傾けてみてもいいのではないだろうか。
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