月980円のオンライン予備校「受験サプリ」は、どのようして生まれたのか:上阪徹が探る、リクルートのリアル(1/6 ページ)
幅広い領域で次々とビジネスを拡大しているリクルート。本連載は、その変化を象徴するキーワードをテーマに、第一線で働く現役社員に聞く。「新規事業」の第3回前編に引き続き、後編をお届けする。
著者プロフィール:
上阪徹(うえさか・とおる)
1966年兵庫県生まれ。1989年早稲田大学商学部卒業後、リクルート・グループなどを経てフリーランスのライターとして独立し、雑誌や書籍などで執筆。経営、経済、金融、ベンチャー、就職などの最前線のビジネス現場から、トップランナーたちの仕事論を分かりやすく伝えるインタビュー、執筆を得意とする。取材相手は3000人を超える。
著書に『書いて生きていく プロ文章論』『リブセンス<生きる意味> 』『成功者3000人の言葉 人生をひらく99の基本』『職業、ブックライター』『僕がグーグルで成長できた理由』など。インタビュー集にベストセラーになった『プロ論。』など。
この20年で急激な成長を遂げたリクルート。その変化を象徴するキーワード「グローバル」「新規事業」「テクノロジー」「戦略・人材活用」「M&A」をテーマに、第一線で働く現役社員に聞く。「新規事業」の前編に引き続き、後編をお届けする。
大学受験を目指す若者たちなら今は知らない人はいないほどの存在になっているWebサービス『受験サプリ』。この事業を20代で発案し、現在、編集長を務めているのが、松尾慎治氏だ。
2006年に入社。早くからプログラムやゲームに関心を持ち、大学時代には自らゲームを作っていた時期もある。起業やネットベンチャーへの就職を考えていたが、「大企業には新卒でしか入れない」という起業家の叔父のアドバイスでリクルートに入社する。
『Hot Pepper』の営業研修を経て、インターネットマーケティング局でキャリアをスタートさせ、Webサービスの立ち上げやリニューアル、日々の改善をサポートする仕事に4年。大きな知見を得たが、自らの起業のためには新たな経験を積んでおきたかった。
そこで、松尾氏が考えたのは、異動を願い出ることだった。しかも、会社に堂々と、である。その仕組みがリクルートにはある。「キャリアウェブ」だ。
「簡単に言うと『そこに行きたい』と手を上げて、『来てもいいよ』と言ってもらえたら無条件で異動できる制度なんです」
社内求人がイントラネット上に出て、応募する。上長への報告義務はなく、しかも拒否権もない。経歴書を出し、面接をして部下が勝手に異動を決められる。
「サポートではなく、責任を持って何か事業に関わってみたいと思ったんです。そのときに浮かんだのが、世代が違う高校生と話をしてみたい、という思いでした。当時26歳だったんですが、イマドキの高校生が何を考えているのか、何に困っているか、聞いてみたかったんです」
異動先は高校生向けに進学情報を発信している事業部の商品企画担当。ここでのカスタマーは、まさしく高校生。中長期の戦略や新サービスを作り上げるプロジェクトが立ち上がり、松尾氏はそのチームの中でカスタマーである高校生に話を聞く、というミッションが委ねられることになる。
「実際に高校生とお茶を飲みながら、『最近、何か困ってることはある?』なんて、じっくり話を聞ける。まさに夢に描いていた仕事でした」
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