月980円のオンライン予備校「受験サプリ」は、どのようして生まれたのか:上阪徹が探る、リクルートのリアル(3/6 ページ)
幅広い領域で次々とビジネスを拡大しているリクルート。本連載は、その変化を象徴するキーワードをテーマに、第一線で働く現役社員に聞く。「新規事業」の第3回前編に引き続き、後編をお届けする。
カリスマ先生を集めなければいけない
一方で、カリスマ先生を集める必要があった。全国各地を回り、評判のいい先生を探した。実はプロジェクトチームでは調査の段階で、すでに先生へのアプローチを始めていたという。
「先生がいないと事業は始められませんし、事業化できる説得力も出てこない。賭けでした。もし『New_RING』でダメなら、自分たちでやろう、とまで思っていましたから」
カリスマ先生がリクルートの新しい取り組みに賛同してくれるのか。実は松尾氏自身、高いハードルがあると思っていた。
「ここで最初の営業経験が生きたんです。『Hot Pepper』の広告を売るのに、まず大きなビジョンを語る。このスタイルで行こう、と。このサービスの哲学は、塾や予備校に通えない高校生を助けることです。これって不平等なことじゃないですか。学びたいけど学べない。所得格差、地域格差に基づく教育格差。これは当人の意思では解決できない。勉強したいのにできない子どもたちがいる現状を、私たちは変えていきたいんです、と」
ところが、戻って来たのは、強い共感だった。
「正直に言うと、偏見がありました。塾や予備校の先生は、もちろん教えるのは上手なのですが、あくまで商売でやっているんだと思っていたんです。ところが実際には、教育に対する思いが人一倍強かった。熱い人が本当に多かった。『賭けてみる』と言ってくださって」
そして不安だったのが、日本の受験生たちが、動画サービスを受け入れてくれるかだ。
「実はずっと自分の中では腹落ちしなかったことがあって。スマホやPCで動画授業を受けるなんてことが、本当にできるのか、と思っていたんです」
人の集中が続くのは20分が限度だと聞いた。そこで、ワンチャプターは20分に決めた。そして、サンプルを高校生に見せたら、「これはいい」という声が返ってきた。
「高校生たちにとっては、長時間スマホやPCで動画を見るのは、普通のことだったんです。実際、今は家に帰ると、彼らが真っ先に向かうのはテレビではなく、スマホやPC。YouTubeやニコニコ動画を見ている。動画は、ごくごく普通に受け入れられることが分かりました」
関連記事
- “リクルート流”とは何か? 中国でそれが通じた瞬間
幅広い領域で次々とビジネスを拡大しているリクルート。今や売り上げは1兆円以上に。今のリクルートって、いったいどうなっているのか。第一線で活躍する“エース”たちから、今のリクルートのリアルを探る。 - 宋文州氏が語る、日本人が「多様性」を受け入れられないワケ
日本に多様性は必要だと思いますか? こう聞かれると、ほとんどの日本人は「必要だ」と答えるはずだ。にも関わらず、なぜ日本では多様性を受け入れる考え方が広がらないのか。その疑問を、ソフトブレーン創業者の宋文州氏にぶつけてみた。 - なぜ内定をもらえない学生が出てくるのか――彼らの行動を分析した
学生の就活が本格化しているが、内定をもらえる人ともらえない人でどのような違いがあるのか。これまでよく分からなかったことが、ビッグデータで明らかになってきたという。就活生の行動を分析している、リクルートキャリアの担当者に話を聞いた。 - なぜリブセンスにできて、リクルートでできなかったのか――成果報酬型のビジネス
ネット上にアルバイト情報はたくさんあるが、ここ数年「ジョブセンス」に注目が集まっている。なぜ企業はこのサイトに広告を出し、ユーザーは応募するのか。サイトを運営している最年少上場社長・村上氏に、ビジネスモデルなどを聞いた。 - 大企業の正社員、3割は会社を辞める
東日本大震災の発生以降、「今後どのように働いていけばいいのか」と考えるビジネスパーソンも多いのでは。ポスト大震災の働き方について、人気ブロガーのちきりんさんと人事コンサルタントの城繁幸さんが語り合った。 - ゆとり教育で育った世代は、本当に仕事ができないのか
「若手社員が思うように育たない。その原因は“ゆとり教育”にある」と思っている人もいるだろう。しかしこの考え方は、本当に正しいのだろうか。原因は学校教育にあるのではなく、バブル崩壊以降の働き方の変化にあるのかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.