月980円のオンライン予備校「受験サプリ」は、どのようして生まれたのか:上阪徹が探る、リクルートのリアル(4/6 ページ)
幅広い領域で次々とビジネスを拡大しているリクルート。本連載は、その変化を象徴するキーワードをテーマに、第一線で働く現役社員に聞く。「新規事業」の第3回前編に引き続き、後編をお届けする。
Webサービスで5000円は高い
2011年2月。さまざまな新たなデータを加えての『New_RING』最終審査のプレゼンテーションは、峰岸社長はじめ、経営陣がズラリと並ぶ場で始まった。プロジェクトチームで分担してシナリオを書き、上司に発表を委ねた。質疑応答に備え、分厚い想定問答集も用意した。鋭い質問にも対応し、数日後、上司のもとにグランプリ受賞を知らせるメールが届く。
「まさか本当に自分たちが『New_RING』で事業化に取り組めるなんて、夢にも思っていませんでした。直後から『人は足りてるか』メールがあちこちからたくさん来ました」
2カ月後の4月。予想以上の予算が付き、スタジオを借りての授業の撮影から事業は始まる。サービス開始は10月。受験はすでに佳境に入っている時期のため、直前対策講座として実験的にリリースをすることにした。ところが、思わぬ事態が起きる。
「事業化にあたって、高校生、保護者、高校の先生にも話を聞きに行っていました。そこから導き出したのが、買取型で1講座5000円という価格設定でした。塾や予備校に行くと年間30〜50万円かかります。それを踏まえたら、圧倒的に安い価格設定で魅力的だ、と考えていました」
しかし、反響が良くない。使っている受験生たちの満足度は極めて高いのに、だ。
「改めて調べると、確かにリアルな予備校と比べれば、何十分の1以下の価格なんです。しかし、Webサービスとしての価格で捉えてみるとどうなのか。そこがポイントでした。Webサービスとしては、5000円という金額は高い、ということだったんです」
リアルとWebを単純に比較してはいけなかった。WebにはWebの相場観を持って、価格設定を考える必要があったのだ。
「では、Webサービスとしたらいくらが適正か、ということと、安かろう悪かろうというイメージがつかないギリギリの価格はどこか、徹底的に調査しました。それが1000円だったんです。これにちょっとお得感を付けて980円にしました」
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