農業の衰退を食い止めるには――ベンチャー企業「マイファーム」の新ビジネス:INSIGHT NOW!(2/2 ページ)
農業従事者の減少に伴い、耕作放棄地が増えている――そんな問題を解決するため、貸し農園やビジネススクールなど、さまざまなアグリビジネスを展開するソーシャルベンチャー「マイファーム」を紹介しよう。
“人”を軸にした情報発信を
マイファームは設立当初、農業ベンチャーのパイオニアということで、取材依頼が来ることが多かったという。その大半は西辻氏へのインタビューだったこともあり、西辻氏自身が広報対応を行っていた。しかし、企業が成長のステージに入り、事業が次々に立ち上がっていくなかで、企業のトップだけでなく、もっとさまざまな側面を発信する必要性が出てきた。そこで2013年に広報・マーケティング担当として小林静香氏が着任した。
着任以来、小林氏は「人と農業を近づける」ことを主旨としたPR活動を展開している。スクールの卒業生や体験農園の利用者にインタビューしてコンテンツにしたり、メディアに取材してもらったりするなど、“人”を軸にした情報発信を進めている。
また、設立当初は農業ビジネスに対してメディアの関心が高かったことから、取材依頼が来ることも多かったが、いつまでもこの状況が続くとは考えておらず、自社メディアであるFacebookページと公式サイトの強化を進めていたという。
「日常の生活の中で農業と接点を持つのは、なかなか難しいですが、例えば『美味しい野菜の見分け方』や『ハウス栽培ではなく、露地栽培による旬な野菜』など、日常の食卓に役立つような切り口は“野菜”に関心を持つきっかけになります。Facebookページでは、そういったきっかけづくりにつながる情報を発信するようにしています」(小林氏)
Facebookページで“野菜”に関心を持った人に向け、公式サイトでは“野菜づくり”や“農業”に関心を持ってもらえるようなコンテンツを発信している。そして事業関連のコンテンツを見てもらい、行動に移すきっかけにしてもらう――そんな流れを作ることが彼女の目標だ。
農業に関する一般的な情報が不足している
今までは取材に受け身で対応する広報・PR活動だったが、能動的な情報発信へ転換すべく、同社はこの1年取り組んできた。しかし、“農業関連”というあいまいな認識のままに、事業の取材依頼をされることがあったり、同社と親和性があるテーマにも関わらず、メディア側から取材先の候補として挙げられることなく、機会を逸してしまっているケースがあるなど、課題はまだ多いという。
「メディアに限らず、一般の方々においても、農業に関する一般的な情報が不足していると感じています。利用者や事業者、そしてメディアにとって意味がある情報をきちんと精査・発信しながら『人と農業を近づける』広報・PR活動を進めていきたいと思います」(小林氏)
筆者はボランティアとして地域活性プロジェクトに参加しているが、過疎地域では第一次産業を営む高齢者の親世代が、子どもが辛い目に遭わないように「ちゃんと大学へ進学して、一般の企業に就職しろ」とあえて郷里を離れることを勧め、自ら過疎化や産業衰退を進めてしまっていると聞く。
そのような状況下で、マイファームが目指す“農業活性化”は、第一次産業を維持するだけでなく、地域再生や地域活性においても有効ではないか。彼らの取り組みはそんな期待を感じさせてくれる。(小槻博文)
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