なぜ、ガザに比べてイスラエルの死者数は圧倒的に少ないのか?:伊吹太歩の時事日想(1/3 ページ)
イスラエルとパレスチナの間で戦闘が起きている。死者の数が1000人を超えるほどの大規模なものだが、両者の被害状況には大きな差があるのはご存じだろうか。その裏にはある“防衛兵器”の存在がある。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
今、イスラエルとパレスチナの間で、多数の死者を出す大規模な戦闘が繰り広げられている。死者数はパレスチナ自治区のガザ地区で1000人を超え、衝突は自治区のヨルダン川西岸地区にも広がりつつある。
今回の戦闘は「中東和平紛争」における最新のニュースだ。長年にわたって続く中東和平紛争を簡潔に説明すると、第2次世界大戦後にイスラエル(ユダヤ人国家)が独立したのをきっかけに、周辺のアラブ諸国が反発、以後アラブ国家とイスラエルの戦争が繰り返されてきた。その結果、現在のパレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区とガザ地区)とイスラエルが近接して存在し、紛争が続いている(参考記事:9 questions about the Israel-Palestine conflict you were too embarrassed to ask)。
そして今回、パレスチナ自治区のガザ地区を2006年から実効支配しているイスラム原理主義組織ハマスと、イスラエル軍が砲撃の応酬を繰り広げ、さらに地上戦や発展しているのだ。今のところ、米国やエジプトが懸命に停戦を提案しているが、停戦が合意されても根本的な解決にはならない。
今回の戦闘についての報道を見ていて不思議に思うことがある。死者数で取り上げられるのが、ガザ地区にいるパレスチナ人ばかりということだ。もちろん米国に支援を受けたイスラエル軍がハマスを圧倒しているのは間違いないが、ハマスも負けじと反撃の砲撃を激化させている。にもかかわらず、イスラエル側にガザのような多数の死者が出ているというニュースは見ない。
実際に、イスラエル側の死者数が圧倒的に少ないのは数字を見れば一目瞭然だ。30日時点でイスラエルは3289発のミサイルをガザに着弾させ、1221人を殺害した。一方のハマスは、2612発のミサイルをイスラエルに放っているが、死者数は56人。その多くはイスラエル軍の兵士である(参考記事:The Toll in Gaza and Israel, Day by Day)。
この圧倒的な差の裏には、イスラエル軍が誇る「アイアンドーム(鉄のドーム)」の存在がある。アイアンドームとは、イスラエルが世界に誇る迎撃ミサイルシステムのことだ。このアイアンドームは、その正確性についての議論から、紛争のあり方すら変えてしまう可能性を持つ兵器として物議をかもしている。
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