なぜ、ガザに比べてイスラエルの死者数は圧倒的に少ないのか?:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
イスラエルとパレスチナの間で戦闘が起きている。死者の数が1000人を超えるほどの大規模なものだが、両者の被害状況には大きな差があるのはご存じだろうか。その裏にはある“防衛兵器”の存在がある。
驚異の防衛兵器「アイアンドーム」を知る
アイアンドームは、弾道軌道の無誘導ロケット砲をミサイルで撃ち落とすものだ。そうすることで、イスラエルに向けられたミサイルが自国内に着弾することなく被害を防げる。いわゆるミサイル防衛だ。
アイアンドームは可動式で、発射を発見するレーダーユニットと、弾道と着弾点を計算する戦闘管理・コントロール車両、そして迎撃ミサイル3発を発射できるランチャーからなる。どんな天候でも迎撃が可能で、複数の砲撃にも対応が可能だ。しかも予想着弾点に人的被害がない場合には、あえて迎撃しないコスト意識も備わっている(迎撃ミサイルは1発5万ドル=約510万円)。
例えばガザ地区からミサイルが発射されると、レーダーがミサイルを感知し、コントロール車両が弾道を計算し、迎撃ミサイルの発射を命じる。ミサイルを返り討ちにするまではあっという間だ。アイアンドームの守備範囲は約64キロ。近隣からの砲撃を想定する短距離型の兵器である。人口が密集する都市部のエルサレムやテルアビブなどに向けて放たれたミサイルを中心に迎撃しており、イスラエルの重要地域は、ほぼ完全にドームに覆われて守られていることになる。
特筆すべきは迎撃の成功率だ。イスラエル軍によれば約86%だという。軍事専門家の中には成功率を“盛っている”と指摘する者もいるが、イスラエル軍は、アイアンドームが迎撃するのは都市部を狙った砲撃であり、迎撃する必要がないものも少なくないと反論している。
イスラエルを「ドーム」で防衛するこのシステムは、イスラエルの3企業が開発したものだ。開発費は、米国政府からの9億ドル(日本円換算で約918億円、2014年7月31日現在)を越える財政支援が大部分を占めている。レーダーユニットはエルタ社、戦闘管理・コントロール車両はインプレス社、そして迎撃ミサイル「タミル」を開発したラファエル先端防衛システム社だ。ラファエル社が制作したプロモーションビデオでは、ナレーションが「技術的なブレークスルーだ」と絶賛している。
かつてイスラエルのエフード・バラク国防大臣(当時)が「ほぼ完ぺきだ」と絶賛したアイアンドームは、2011年3月に導入されてからイスラエルのアラブ勢力との戦い方を変えたと言っても過言ではない。今回のハマスとの戦いでもアイアンドームがイスラエルへの砲撃を防いでいるために、民間人への被害は圧倒的に少なく済んでいる。
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