なぜ、ガザに比べてイスラエルの死者数は圧倒的に少ないのか?:伊吹太歩の時事日想(3/3 ページ)
イスラエルとパレスチナの間で戦闘が起きている。死者の数が1000人を超えるほどの大規模なものだが、両者の被害状況には大きな差があるのはご存じだろうか。その裏にはある“防衛兵器”の存在がある。
アイアンドームの“弱点”
それでも、アイアンドームに課題がないわけではない。例えば、破壊された砲弾はどうなってしまうのか。破片は地上に落ちてくるはずで、それによって被害を受ける人が出る可能性はある。このリスクについては開発者も認識しているが、現時点ではどうすることもできないという。
コストの問題もある。ハマスが放つカッサーム・ロケットは1発1000ドル(約10万円)。これを迎撃するアイアンドームの迎撃ミサイルが1発5万ドル(約510万円)では高過ぎる。戦闘が長引けば長引くほど、イスラエルも財政的にどんどん首が絞まっていくことになるだろう。
“自衛”という名の無差別殺人
欧米ではアイアンドームの存在により、紛争のあり方についての議論を起こすまでになっている。英エコノミスト誌は、この迎撃システムへの確度や信頼性が高まれば「イスラエルは、紛争を早急に終わらせようとする国内世論や軍事的なプレッシャーに逆らって、ガザへの攻撃をいつまでも継続させることが可能になる」と警鐘を鳴らす、元政府高官のコメントを紹介している。
自陣に犠牲を出さないため、紛争を長引かせて「ハマス戦闘員をせん滅させる」という大義のもと、死者数を無駄にどんどん増大させることにつながりかねないというのだ。恐ろしいシナリオだ。ちなみにガザ地区は人々が密集して暮らす地域であり、砲撃を受ければ巻き添えになる人が出る。それも、現在民間人の死者数を増加させている要因の1つだ。
アイアンドームという優れた自衛の軍備が、結果的に敵陣にいる民間人を大量に虐殺する現実には、複雑な思いを抱いてしまう。今後、迎撃ミサイルの守備範囲が広がって確度がますます上がれば、「相手が先に攻撃してきた」という“専守防衛”という大義をかざして、敵陣を攻撃しまくることも可能になりかねない。
イスラエルで今まさにそんな事態が発生している。自衛が無差別殺人を生む――“専守防衛”を掲げる日本でも自衛そのものについて、こうした角度から考えてみる視点も必要だろう。
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