医療やビジネスを一変させるスパコン、「ワトソン」が人類の救世主になる日:伊吹太歩の時事日想(3/3 ページ)
米IBMが開発に注力しているスーパーコンピューター「ワトソン」が注目を集めている。人の会話や文書といった膨大なデータを分析し、最適な答えを瞬時に導き出す――今後、ワトソンの活躍が期待されるのは医療分野だ。ワトソンがもたらす未来の医療とは?
ワトソンが“名医”になる日
医師はガン患者の症状や病歴といった医療情報を、PCや携帯端末などを使ってワトソンに“知らせる”。ワトソンは、患者からのあいまいな情報を解釈してから理論を立て、人類がガンとの歴史で蓄積した莫大な文献や、過去のさまざまな症例に照らして分析を行う。その上で、病気がどう進行するかを示し、最も的確だと思われる治療方針を医師に提示する……。
要するにワトソンは、数十年にわたってガンを専門に治療してきたベテランの名医よりも断然経験の豊かな“医師”になり得るのだ。少なくとも、病院や医師ごとにある「質の差」を埋めることになり、医師の人為的ミスが減ることにもつながる。特に医師不足に悩む病院では貴重な戦力になるだろう。
もっとも、今のところワトソンはまだ実用化の手前にある。ニューヨークのメモリアル・スローンケタリング病院もワトソンを研修する病院の1つ。同病院は毎年3万人のガン患者を治療し、今年のUSニューズ&ワールド・レポート誌の病院ランキングで、ガン治療部門において米国最高の病院に選ばれている(参照リンク)
同病院のマーク・クリス腫瘍内科部長は、ワトソンの可能性について、著者にこう熱っぽく解説してくれた。「現在、分析の精度を高めるために医療の考え方を教え込んでいるところです。ワトソンはやり取りするなかでどんどん賢くなっていく。近々、診察室に登場するでしょうが、ワトソンの学習はずっと続いていくよ」
テキサス州にあるガン専門病院のMDアンダーソンがんセンターも、ワトソンの医療認知システムを導入すると発表している。全米のガン専門病院ランキングで第2位の同センターは、ケネディが月面着陸に全力を注いだことにならい、英知を集約してガン撲滅に挑む「ムーンシュート(月面探査)計画」を立ち上げた。ワトソンは米国の威信を懸けたこの計画の中核を担うことになる。
ガン治療に力を注ぐ世界最先端の病院が、こぞってワトソンに期待を寄せている。人工知能によるガン治療が、人類の脅威であるガンとの戦いに変革をもたらすのか。ガン治療の未来を背負ったワトソンが、多くのガン患者を救う計画を成功させ、社会に貢献する姿を早く見たいものだ。
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