イスラム過激派組織「イスラム国」の拡大に頭を悩ませる、意外な「あの人」:伊吹太歩の時事日想(2/2 ページ)
イラクとシリアで拡大を続けるイスラム過激派組織「イスラム国」。先日行われたNATOの首脳会議では、イスラム国との戦闘に前向きな“有志連合”10カ国が固まった。しかし、イスラム国の拡大に頭を悩ませるのは、実は西欧諸国だけではないのだ。
ISISに対抗意識を燃やすアルカイダ
こうしたISISの強大化を、これまで最強のイスラム・テロ勢力として君臨し続けきたアルカイダと最高指導者アイマン・ザワヒリは快く思っていない。事実、ISISがイスラム国家を宣言してから、ザワヒリはISISの国家樹立宣言については一切のコメントを出しておらず、国家樹立を認めていない。
ISISはもともとアルカイダ系を名乗っていた。だが、シリアで同じ反アサド勢力として戦う“同志”である反体制派組織を攻撃したり、あまりに傍若無人な攻撃を繰り返すために、アルカイダはISISを「アルカイダ系」の組織ではないと突き放して決別した経緯があるのだ。
最高指導者ウサマ・ビンラディン亡き後にトップに座ったザワヒリは、きっと苦虫を噛み潰したような顔をしていることだろう。実のところ、ザワヒリは斬首といった残忍な処刑を歓迎してこなかった。事実、米軍がまだイラクに駐留していたころ、外国人を斬首刑にして世界に配信していたイラクのアルカイダ系指導者に対して、「世界中のイスラム教徒の支持を失うだけだ」という理由から斬首刑を止めるようたしなめたこともある。
そして、その方針を見せしめるかのように、ISISが米国人ジャーナリストのフォーリー氏を殺害して世界中から非難を受けている中、シリアのアルカイダ系組織、アルヌスラ戦線が2012年に拘束していた米国人作家を無傷で釈放している。これはISISに対するアルカイダの「対抗措置」だと指摘する専門家も少なくない。
もし、ビンラディンが生きていたら……
ISISを意識するアルカイダは、組織拡大への動きも見せている。2012年にインドのムンバイで大規模な市街戦テロを実行し、「次のアルカイダ」と目されてきたパキスタンのイスラム過激派組織ラシュカレ・トイバともさらなる連携強化を行っているという。しかもインドでは2002年にグジャラート州でイスラム教徒虐殺を黙殺したとされる当時のナレンドラ・モディ州首相が、今年インドの新首相に就任したばかりで、アルカイダには格好の標的になる。
その上で、インドだけでなく、イスラム教徒が迫害されているミャンマーやバングラデシュにおけるテロ活動を一元化して強化させ、「カイダト・アルジハード」という組織を新設するとザワヒリは語っている。アフガニスタン・パキスタン地域の拠点から、南アジア一帯でアルカイダの存在感を強固にする狙いがある。実はアフガニスタンのイスラム原理主義武装勢力タリバンの一派がISISに加わるとの報道もあり、アルカイダの動きは明らかにシリアとイラクで拡大するISISを意識したものだと考えられている。
言うまでもないが、ザワヒリが悪名高いテロリストから“更正”した形跡はないし、相変わらず世界から危険人物であるとみられていることは変わらない。要はテロ組織の勢力、主導権争いであり、テロにおける戦術や方針の相違である。ただISISの拡大と残忍さを見る限り、アルカイダの影が薄くなっていることはまぎれもない事実だ。イスラム過激派シンパから寄付される活動資金が奪われていくことにもつながるだろう。
9.11同時多発テロでニューヨークのツインタワーを崩壊させて無差別に多数の民間人を殺害し、世界を震撼させたビンラディンが生きていれば、ISISに手を貸したのではないだろうか。異教徒を殺害することに容赦がないビンラディンは、手段を選ばない傾向があったからだ。現在ビンラディンがいないことは、世界にとって不幸中の幸いだったのかもしれない。
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