「シリア日本人誘拐」の裏にある、テロ組織の“身代金ビジネス”:伊吹太歩の時事日想(1/4 ページ)
シリア北部で日本人が、イスラム教過激派組織に誘拐されたことが判明した。欧米でもジャーナリストや技師が過激派組織に誘拐されているが、その裏にはテロ組織の資金源となる、巨額の「身代金ビジネス」があるのだ。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
シリア北部アレッポで8月17日までに、日本人の湯川遥菜氏がイスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国(Islamic State of Iraq and Syria、略称ISIS)」とみられる戦闘員らに拘束されたことが判明した。湯川氏の様子はビデオや画像などで公開され、日本でも彼のこれまでの言動などがあちこちで取り上げられた。
そんなニュースが日本を騒がす矢先、2012年11月に誘拐された米国人ジャーナリストのジェームズ・フォーリー氏がカメラの前で、ISISテロリストに生きたまま斬首される残忍な映像が公開された。
フォーリー氏の家族の思いを考えると心が痛むが、ビデオに登場して処刑を行った人物は英国なまりのイスラム過激派であり、「ザ・ビートルズ」というニックネームがある英国出身者集団(500人ほどいると言われる)の1人とみられている。今シリアやイラクのISISなどの過激派集団に、欧米国籍所持者が若者を中心に増えているが、その現実を見せつけた意味でも、この件は世界で衝撃を持って受け止められた。
米国はフォーリー氏の釈放に向けた活動を行っていたが結局、テロリストとは交渉しないという従来のスタンスを曲げず、結果的には彼を見殺しにしてしまった。
今米国では、米政府の“交渉しない”という方針の是非が議論されている。そしてその議論の背景には、ISISの「身代金ビジネス」がある。奇しくも今、日本人がISISとみられる集団に誘拐されており、日本もこの問題について考える必要があるだろう。
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