ユーザー数4億7000万人を達成――10億人を目指す「LINE」:なぜ人は“動く”のか(2/3 ページ)
世界の人口は約72億人。つまり、10億人を動かすとなると、世界の人々のうち、7人に1人の心をつかむ必要がある。そんな究極の状況を生み出すために必要不可欠な条件とは?
Q:10億人を動かすために絶対必要な条件とは、いったい何でしょうか?
本田: いよいよLINEが来ました。これは田端さんにたっぷりお聞きしないと!
田端: うーん。確かにいろんな狙いや理由はあるんですが、自社のことだとしゃべりづらいなあ……。あと、この規模になってから理由を語ると後出しジャンケンみたいでちょっとカッコ悪い(笑)
本田: じゃあ、一般論から。10億人を動かす条件を見ていきましょうか。
田端: ありがとうございます(笑)。まず10億人ともなると、宗教やコミュニケーションといった人間なら誰しも持っている本能に訴えかけるという条件は外せなくなります。
本田: 国や人種の違いも飛び越えるユニバーサルな欲求にも応える必要も出てきます。
田端: 10億人が使っているモノはけっこうあると思うんですよ。ただ、その内訳を見ると、国や属性ごとにローカライズ(※2)されていて、1000万人規模×100カ国といったゲージで見るべき事象だったりする。
本田: そういう意味でいうと、まさにLINEは興味深い。ローカライズはどの程度行われているんですか?
田端: ローカライズはスタンプくらいでしょうか。基本的なメニューは各国の言語に対応していますし、スタンプ以外は世界各国同じだと考えていただいていいと思います。
本田: 端末にあらかじめインストールされているアプリというわけでもないのに、ここまでユーザー数が伸びたのにはビックリしました。
田端: コミュニケーションアプリはユーザーが自ら広めてくれるという側面があります。ユーザーにとって、周囲に使っている人がいればいるほど便利になる。古くはファックスやメールもそうだったと思うんです。
本田: 自分だけがファックスやメールアドレスを持っていても、送る相手がいなければ、何の役にも立たない。
田端: ユーザー数が10倍になると、ユーザーメリットは100倍になるという研究報告もあります。ユーザー数がある程度増えると、後発サービスが「通話音質がいい」といった機能面でのメリットを提示しても、ひっくり返すのは難しくなる。
本田: TwitterにしろFacebookにしろ、最初は手動で登録しなくてはいけなかったのに、LINEは連絡先が自動的に入力されるという斬新な登録システムも衝撃的でした。
田端: 当初は賛否両論ありましたが、ユーザーが増えていくにつれて声高に「使いたくない」と言っていた人たちの声が小さくなる。
本田: 風向きというか、最初の壁はどのあたりにあるんでしょう。
田端: 実感値としては、各国の人口の5%を超えられるかどうか。このハードルを超えてしまえば、放っておいても増殖するモードに入ります。
本田: 「使うかどうか」を厳密に選定する段階から「使っているのが当たり前」に移行する、その分水嶺(れい)が5%のところにある、と。
田端: さらに、人口カバー率2割を超えると、「使っていないなんておかしい」に転じます。
本田: これまでもスカイプ(※3)やFacebookのメッセンジャーといったコミュニケーションアプリがあったなかで、ここまでLINEが伸びたのはなぜなんでしょうか。
田端: 従来のコミュニケーションアプリとは似て非なるものだったというのが大きいと思います。
本田: 機能としての違いはほとんどありませんよね。
田端: Facebookが典型ですが、従来のコミュニケーションアプリは基本的に言語能力に長けた、頭のいいエンジニアが考えたものであり、意味のある情報(インフォメーション)をやりとりするためのものでした。でも、LINEはよくも悪くも感情(エモーション)をやりとりするツールなんです。
本田: スタンプのことですか?
田端: スタンプの存在とバリエーションは大きいですね。言語を超えた微妙なニュアンスのやりとりができる。スタンプだけで延々会話できてしまいますからね。
本田: 感情を画像で表すというのも画期的でした。言葉は分からなくても、ニュアンスは伝わる。ビジュアルは軽々と国境を越えるんだなということを改めて感じました。
田端: じつは人と人とのコミュニケーションはくだらなくて、意味のないやりとりが大半を占めている。その点にフォーカスを当てたからこそ、ここまで急成長できたように思います。
本田: スタンプという「非言語」を取り入れたことで、言語の壁を越えることができた、と。
田端: スタンプって、じつはコミュニケーション論として深いものがあるんですよね。「日本のアニメは世界でも人気」というクールジャパンの文脈だけではありませんから。ただ、米国では立場のある大人ほど「スタンプを送るなんて子どもっぽい」と断じる傾向もある。それが今後、どう変わっていくのかは僕らも注目しています。
関連記事
- プリン約4000個を誤発注――Twitterの呼びかけで完売
1000人――、人を動かすことを考えるときの最少単位。いざ動員を試みると決して容易ではない数字でもある。今回は、プリン4000個を誤発注したという実際の事例をもとに、1000人を動かす条件を探ってみたい。 - 開始から10カ月で購読者数1万人突破――ホリエモンのメールマガジン
「1万人コンサート」「1万人動員!」など、大人数を象徴する数字として頻繁に登場する1万人。では、実際に1万人を動かすにはどのような条件を満たす必要があるのだろうか? 今回は、ホリエモンこと堀江貴文氏の有料メールマガジンを例に考えます。 - 1秒間に14万3199ツイート――Twitterの世界記録を更新した「バルス祭り」
「有料登録者数10万人突破!」「累計来館者10万人を達成」など、超えるべき“壁”としてとらえられることが多いのが、10万人という数字である。10万人の心をゆさぶり、行動を促すツボとは? - 1日約100万人に「ネスカフェ」を広めるアンバサダーたち
「ミリオンセラー」ともいわれるように、100万は大ヒットを示す1つの指標である。それだけに当然ながら、一筋縄では動いてくれない。複雑さを増してくるメカニズムを掘り下げていこう。 - 東京マラソンでブーム再燃。日本のランニング人口は1000万人を突破
1000万人が動くということは、日本でいえば、全人口の10人に1人を動かす計算になる。当然ながら、時間も手間もかかる。方向性を間違えれば、とてつもない無駄足を踏むことにもなりかねない。 - 国内の認知度がほぼ100%――1億人が盛り上がるハロウィン。
1億人ともなると、ほぼ日本の人口に匹敵する。「国民的人気」と呼ぶのにふさわしいような一大ムーブメントを生み出すには、どのような条件が求められるのか。さっそく事例を見ていこう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.