第4回 「iBeacon」と「NFC」のちょっとした誤解をひもとく:ビジネスパーソンが理解しておくべき、新時代のキーワード(3/3 ページ)
iPhone 6/6 PlusへのNFC搭載と新サービス「Apple Pay」は、今後の決裁のあり方を変えると期待されている。では、iBeaconとNFCとの関係はどうなのか。一部で誤解されている部分を簡単におさらいしよう。
iBeaconは、NFCを駆逐する? という誤解
さて、iBeacon機能に関してよく聞かれる話に「iBeaconはNFCの代替となるのか」「両者はライバル関係なのか」がある。こちらは、互いの技術の性質を理解すると「誤解」であることが分かると思う。
iBeaconとNFCの特性の主な違いを以下にまとめた。
iBeaconとNFCの特性の違い | iBeacon | NFC |
---|---|---|
通信範囲 | 数センチ〜10メートルほど | 数センチ以内 |
通信の対象 | 1対多 | 1対1 |
タグ/モジュールの駆動(クライアント側) | 外部電源が必要 | 外部電源は不要 |
セキュリティ | △ | ○ |
両者は「補完関係にある」というのが多くのサービス関係者らの思いだ。それぞれに向き不向きがある。例えばNFCは、iBeaconの課題である「セキュリティ性」をカバーできる。iBeaconは、他の技術を組み合わせて課題を補いながら、さまざまな方向性を模索している。これが現状だ。
iBeaconの通信範囲は半径10数メートルまで(設定によって通信距離の微調整は可能)。一方で、NFCは非接触通信ながらもリーダーと端末(もしくはNFCタグ)を数センチ以内の距離まで近付けて使う。“タッチする行動”がそれに当てはまる。NFCは「自身が使う」ことを前提にした行動で示して通信するのに対し、iBeaconは「受け身で情報を取得できる」という違いがある。
実際の用途では、「小売店のPOSで、スマホをかざして支払いする」「駅で改札を通過する」といった用途にはNFCが向く。一方、「店の近くに来たら、最新情報が入手できる」「美術館で部屋を移動すると、そこに応じた個別の説明が流れてくる」「目的の商品へのおおよその場所を示してくれる」といった用途にはiBeaconが向く。iBeaconで客を店内に誘導しつつ、実際の決済はNFCにて、あるいはアプリ内で完結させる。このあたりが手堅いパターンだ。参考までにiPhone 6/6 Plusで使えるアップルの新サービス「Apple Pay」も、かざして支払うサービスなので、決済の実手段にはNFCを利用する。
「タッチして決済」の仕組みは、おサイフケータイやIC乗車券(Suica)などを中心に、日本では多くの実績があり、すでに広く普及している。これが一朝一夕でiBeaconで置き換わることは当面ないと思われる。
NFCはカード媒体でも使える
もう1つ、意外と忘れられがちだが、NFCの仕組みはスマートフォンだけでなく、普通の非接触カード媒体(IC定期券やクレジットカードなど)でも使える点が強い。iBeaconはクライアントにも電源のほかに、それを制御するアプリのような仕組みが必要となる。どうしてもスマートフォン、あるいはタブレット、スマートウォッチのような、携帯型かウェアラブルデバイスでの利用が中心となる。このあたりも、NFC(や、おサイフケータイ)の仕組みは当面置き換わらないと思う理由の1つだ。
ちなみに、現状のビーコン発信器は「偽装が比較的簡単に行えてしまう」弱点がある。本来その場所にはいないのに「同じ信号を発する“偽”のビーコン発信器」を手元に設置して“アプリ”をだまし、「本来は来店しないと得られない来店ポイント」をだまし取ったり、あるいはニセのiBeacon信号で他のユーザーのアプリに誤動作を起こしたりと、さまざまな悪用も、少し考えただけで何個か思いつく。こうした行為を防ぐため、例えば「来店ポイントの付与はNFCで」などと併用したり、「(耳には聞こえない)超音波パターンを使って実際の来店をダブルチェック」したりと、さまざまなアイデアもあり、すでに導入例もある。
いずれにせよ「BeaconがNFCに取って代わることはない」、というのが筆者の考えだ。
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