北陸新幹線効果で企業移転が相次ぐ、その理由は?:杉山淳一の時事日想(3/4 ページ)
北陸新幹線の金沢延伸開業まであと半年。特急料金も発表され、石川県、富山県では観光誘致に勢いが付く。そして、企業も北陸に注目し始めている。北陸に進出する企業の動向をふかんすると、北陸新幹線の利便性だけではない理由があった。
北陸地域の動きが活発に 静岡、神奈川から企業が転出、理由は「地震リスクの回避」
いよいよ北陸地域の動きが活発になる。すでにいくつかの企業が北陸地域の移転を決めている。
筆頭はYKK。ファスナーの製造で私たちの生活にもなじみ深い企業で、関連会社のYKK APはアルミサッシなど建材生産の大手だ。そのYKKグループは東京・秋葉原の本社機能の一部を富山県黒部市に移転し、200人以上の社員が移動する。同社の創業者吉田忠雄氏は富山県出身。東京大空襲で東京の小松川工場を失い、1945年から富山県魚津市の工場に生産拠点を移して再出発した経緯がある。
YKK本体は1955年から黒部市に工場を建設。YKK APは1959年から黒部市で生産を開始。北陸本線生地駅付近のほか、黒部市の3カ所に主力の生産開発拠点を持つ。また、2008年には創業75周年を機に観光見学施設としてYKKセンターパークをオープンしている。旧社宅用地に自然エネルギーを取り入れた集合住宅と商業施設「パッシブタウン黒部モデル」を建設中だ。他にも富山県と連携した観光開発の取り組みがあるという。
ハンドクリーム「ユースキンA」など医薬品や化粧品を製造する企業、ユースキン製薬は富山県八尾市の八尾中核工業団地に約3万4000平方メートルを確保し新工場を建設中。神奈川県横浜市の生産機能をすべて移す計画だ。富山県は薬売りの伝統から製薬業が盛んなため、メリットは大きいという。八尾中核工業団地はもともと富山空港からクルマで15分という好立地だった。ここには北陸新幹線を見据えて参加企業が加速し、現在は35社が進出している。
医療機器と航空機部品を製造する日機装は、2014年4月に石川県の金沢テクノパークで新工場を稼働させた(同社は1995年からここで工場を稼働している)。新工場は人工透析装置や「カスケード」という航空機の逆噴射装置や炭素繊維部品を生産する。これらは静岡県の工場から全面的に移転すると報じられた。1年かけて全生産ラインを移管する予定だ。本社は東京にある。移管のきっかけは「巨大地震と津波のリスク回避」という。
こうした取り組みの背景には、もちろん北陸新幹線の東京直結効果がある。とくに日機装の移転は興味深い。日機装の静岡工場はSLの大井川鐵道でおなじみの金谷駅付近にある。東京からの所要時間は新幹線「ひかり」と在来線の乗り換えで約2時間。金沢テクノパークは北陸本線森本駅付近にある。東京から新幹線金沢駅乗り換えで3時間以内で着く。金沢が日帰り圏内に入ったことと、リスク回避が決め手になった。これは東海地域の自治体や企業にとって注目すべき動きである。
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