地方都市で新しい企業が生まれるにはどうしたら?――福岡市の試み:サイボウズ 青野慶久氏×福岡市 合野弘一氏(5/6 ページ)
9月の内閣改造で地方創生担当大臣が新設され、いま再び「地方」が注目されている。地方行政がさまざまな形で地域経済の活性化に取り組んでいる中で、福岡市がユニークな試みを始めている。それは……。
地方に必要な会社に注目
青野: サイボウズは松山市でスタートしましたが、愛媛県の人から「サイボウズのような会社を地元から誕生させるのにはどうのようにすればいいですか?」といった質問を受けることがあるんですよ。これに対し、私は「そういったことは考えないほうがいいですよ」とお答えしています。なぜかというと、冒頭でも申し上げましたが、サイボウズはたまたま松山市に拠点を置いただけで、松山市民を相手に商売をしようと思っていたわけではありません。なので、地元の人にとって、サイボウズのような会社はあまり魅力がないと思うんですよ。
逆にいうと、地方に必要な会社に注目しなければいけません。経営共創基盤の冨山和彦CEOは著書『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)の中で、「GとLの経済」について書かれています。GというのはグローバルのG、LというのはローカルのL。企業は二分化されていて、多くの企業はGばかり注目している。そうした企業は世界に羽ばたいて、日本からいなくなってしまう。税金を払わなくなってしまう。工場をつくってもロボット化を進めてしまう。そうした会社は規模は大きいかもしれませんが、日本にあまり貢献していないんですよね。
一方、Lの企業は地元のために動いてくれるので、経済の原動力になってくれる。しかも地域にとっていいサービスを提供してくれることが多いので、地元の人の幸福につながるかもしれません。
この視点はものすごく大切だなあと感じているんですよ。会社を立ち上げると、経営者は「グローバルに展開できる会社にしなければいけない」と思いがち。規模は大きくないかもしれませんが、地元に貢献する企業がたくさんあるほうが地方にとってはメリットが大きいのではないでしょうか。例えば、散髪屋がないところに散髪屋が出店すれば、地元の人は喜びますよね。サイボウズなんかがやって来ても、誰も喜びませんよ(苦笑)。
合野: なるほど。ただ、新しいサービスや仕組みをつくっていれば、他のところでも使えるのではないでしょうか。例えば、ゴミの分別。いまでは行政も企業も当たり前のように行っていますが、福岡市でそれを導入したのは早かったんですよ。その仕組みがいまアジアに広がりつつある。
青野: 今、日本の「交番」や「給食」の仕組みを輸出しようという動きがありますよね。2つとも商品ではないですが、発展途上国にとってはすぐに取り入れたい仕組みなのかもしれません。先ほどのゴミ分別のように、福岡市がつくった仕組みはやがて“武器”になるかもしれません。
関連記事
- 中学生に「起業の魅力」を伝える――ITで活躍する5人が、福岡市の中学校を訪問
7月16日、東京のIT企業で活躍する5人が、福岡市にある中学校を訪問した。そこで「チャレンジすることの大切さ」「起業の魅力」などを語った。 - 国展開する「はなまるうどん」や「丸亀製麺」が福岡で苦戦するワケ
全国展開するうどんチェーン「はなまるうどん」や「丸亀製麺」が、福岡では業績不振に陥っているという。その背景には福岡独特のうどんに対する文化がある。 - 宋文州氏が語る、日本人が「多様性」を受け入れられないワケ
日本に多様性は必要だと思いますか? こう聞かれると、ほとんどの日本人は「必要だ」と答えるはずだ。にも関わらず、なぜ日本では多様性を受け入れる考え方が広がらないのか。その疑問を、ソフトブレーン創業者の宋文州氏にぶつけてみた。 - 「ななつ星in九州」に見る、乗客をつくるビジネス
鉄道会社が観光列車開発に力を入れ始めた。日本に新たな旅の文化が生まれたと言っていい。こうした「鉄道で遊ぶビジネス」は、鉄道会社が苦手としていたが、他の業界では当たり前のことだった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.