女の子の学力をぐーんと伸ばしてきた、長野雅弘さんをインタビュー:働くこと、生きること(4/7 ページ)
「自分が行きたい学校に行ける」「自分がなりたい職業に就ける」――。さまざまな不安から伸び悩む生徒たちを、次々に有名大学に導いた教育者は、何を考え、何を行ってきたのだろうか。
高校初の「女子学」講座を創設
2005年には、父親が病気になったこともあり、京都の女子校へ。そして1年が経ち、父親の病気も安定したころ、いくつもの学校再建の声がかかり、仙台の女子高校に行くことにした。
「そこでは、女子サッカーの“なでしこジャパン”に何人もの選手を送りました。『部員が勝ちたければ勝てる指導を』『部員が楽しみたければ楽しめる指導』に徹すると、どんどん部員が集まり、いい指導者のもとで伸びていったということ。『なぜ女の子にサッカーなんかをやらせるんだ』と批判もありましたけど、『好きなんだからいいじゃないか』と反論し続けしました。
つまり、そういう人は『女の子がサッカーをやるのはおかしい』と考えているんですよね。女の子に対しての世間の目は、常にそういう感じなんです。いまでは医学部にも女の子はたくさんいますけど、昔は考えられませんでしたしね。どこへ行っても女の子には壁があったんです」
そんな思いがあったため、そこでは日本の高校として初めて「女子学」講座を創設した。
「女子学とは、女子に壁をつくらせない“志教育”です。しきたり、因習、思い込み、思い込まされなど、女の子の前にはいつの時代も『女の子だから』という大きな壁が存在しています。しかし本来、そんな壁は存在してはいけない。女子も男子と同じ権利を持っているのです。『私はこうなりたい』と自由に発想し、行動する権利です。だからこそ、『いま目の前にあると思っていた、あるいは思い込まされていた壁は実際には存在せず、自分の未来を自由に発想し、夢に向かって行動できるようにすること』を目差して女子学をつくったのです。
具体的には、主にミュージカルや演劇、ドラマ仕立てで芋蔓式(いもづるしき)に可能性を引き上げていきました。前例がないから最初は『そんな学問が必要なのか』などの批判を浴びることがありましたが、成果が出ると賞賛に変わりました。
実積としては、ジュニア世界選手権で銀メダルがひとり。オリンピックでは、バドミントンでひとり。それから、サッカーのなでしこジャパンに複数名……などが目立ったところですね。またソフトテニス部は日本一になりました。他には東京芸術大学にも毎年複数名が合格しましたが、それ以上の技量を持った生徒は、世界を目差して欧州の大学を受験し、複数名が合格しています。ちなみにそのような実積を生むことになった女子学の考え方は、現在の本校での『女性キャリア』というカリキュラムに引き継がれています」
しかし、そこでの仕事が一段落した時点で52歳。30年にわたり、「自分の子どもたちと遊びに行った記憶がほとんどない」というほど教育一筋で駆け抜けてきたため、心身ともに疲れが限界に達していた。
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