「きかんしゃトーマス」は成功、自治体とは絶縁寸前? 大井川鐵道に忍び寄る廃線の危機:杉山淳一の時事日想(3/4 ページ)
2014年の鉄道重大ニュースを選ぶなら、大井川鐵道の「きかんしゃトーマス」は間違いない。しかし、地方鉄道としての大井川鐵道を取り巻く環境は厳しい。事前通知なしの減便で自治体から不満の声が上がった。
大井川鐵道と自治体の関係悪化が心配
大井川鐵道のトーマスの運転に関しては、「SL観光の不振を回復したい」という事情もあった。前年までにバス会社が大井川鐵道ツアーを減らしていた。ツアーバス事故による安全コスト増と高速道路料金値引き終了の影響だ。東京や名古屋からの大井川鐵道ツアーに限らず、運転士2人乗務が必要な距離の団体バスツアーはもうからなくなっている。
上は大井川鐵道の収入の推移。単位は千円。下は大井川鐵道の旅客数の推移。単位は千人。数字だけ見れば、大井川鐵道が観光重視に特化し、地域輸送に期待しないという判断も理解できる。しかし、机上の数字とグラフだけの判断は地元の理解を得にくい
大井川鐵道は典型的な「観光価値」重視の会社だから、SLの乗客減は痛い。SL列車の収入が地元の人々の足となる普通列車の赤字を埋めている状況だったからだ。地元の島田市や川根本町にとっても大井川鐵道の観光価値は認めている。だからこそ、新金谷駅の転車台増設の資金を援助した。大井川鐵道の転車台はそれまで千頭駅だけだったから、SL列車の機関車は片道で逆向きになっていた。転車台の増設で往復とも機関車が前向きになり、転車台という見せ場も増えた。これもトーマス誘致に効果があった。
しかし、そこまで支援してくれた地元自治体を大井川鐵道が裏切った。
大井川鐵道のダイヤ改正は、本線(金谷〜千頭)で14往復の普通列車を9往復にするという内容だ。しかもSL観光客の往路または復路としての役割を重視しており、通勤や通学利用者の配慮に欠ける。つまり自治体にとって大井川鐵道の「実用価値」は下がった。
では、自治体にとって大井川鐵道の観光価値はあるかといえば疑問符が付く。なぜなら、大井川鐵道のSL列車に乗る客は、ほとんどが日帰りのマイカー利用者やバスツアー客であり、地元にお金を落としてくれないからだ。
こんな状態で、島田市や川根本町は大井川鐵道を支援する価値を見出せるだろうか。「お役に立てませんが支援してください。そうでなければ、もうかっているSL列車以外の運行はしませんよ」と言っているようなものではないか。大井川鐵道の行動は、先に挙げた十和田観光電鉄の事例に似ている。
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