「きかんしゃトーマス」は成功、自治体とは絶縁寸前? 大井川鐵道に忍び寄る廃線の危機:杉山淳一の時事日想(4/4 ページ)
2014年の鉄道重大ニュースを選ぶなら、大井川鐵道の「きかんしゃトーマス」は間違いない。しかし、地方鉄道としての大井川鐵道を取り巻く環境は厳しい。事前通知なしの減便で自治体から不満の声が上がった。
沿線自治体は通学生のためにバスを購入――もう鉄道に戻れない
大井川鐵道の突然の減便に対し、島田市と川根本町はスクールバスを導入した。リースではなく、運行委託でもなく、バスを購入している。大井川鐵道の実用価値の低下について、自治体が見切りをつけてしまった。税金を投入してバスを買ってしまったからには、簡単にはやめられない。もう鉄道には戻れない。
大井川鐵道の減便にあたり、事前に自治体に相談し通学時間帯の運行を確保していれば、こんな事態にはならなかった。バスの導入と運行費用分の支援はすぐに受けられたかもしれない。島田市と川根本町はこの点についてとても残念に思っているだろう。いまや、大井川鐵道と沿線自治体との信頼関係は危機的状況である。
大井川鐵道は2010年に西武鉄道から電気機関車を3両購入している。また、十和田観光電鉄から、元東急電鉄の中古電車を2両購入した。鉄道ファンにとっては嬉しいことだけど、電気機関車は現在も稼働せず、飾りになってしまっている。ムダ使いと指摘されても仕方ない。元東急電鉄の中古電車は1両でワンマン運転ができるタイプで、これは老朽化している2両編成の普通列車を1両運行に置き変えるためだろう。電車は若干新しくなるとはいえ、1両になると座席が減る。サービス低下といえそうだ。
このままでは、大井川鐵道が自治体に資金支援を要請しても「SLが走ればもうかるんでしょ。もう沿線の人々は普通電車に乗らないから、勝手にSLでもトーマスでも走らせなさい」となってしまうだろう。そしてきかんしゃトーマスの契約が切れた時点で大井川鐵道は存続の危機を迎える。
大井川鐵道存続のカギは、島田市でも川根本町でもなく、親会社の名鉄でも、井川線の運行を委託している中部電力でもなく、きかんしゃトーマスの版権を持つソニー・クリエイティブ・プロダクツが握っている。この危機感を大井川鐵道の経営陣は認知しているだろうか。今すぐに自治体との関係改善に尽力すべきだ。
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