赤字で当然、並行在来線問題を解決する必要はない:杉山淳一の時事日想(1/3 ページ)
並行在来線問題の本質は「新幹線の開通によって赤字になる路線を自治体が引き受ける」という枠組みだ。しかしこれは間違った見方だ。実は、整備新幹線の条件に、自治体による並行在来線の「運営義務」はない。廃止したって構わない。根本的に解決するなら、枠組みを変えるしかない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
並行在来線とは、「整備新幹線」に並行する在来線の幹線である。東海道新幹線に並行する東海道本線、山陽新幹線に並行する山陽本線は並行在来線とは言わない。東海道新幹線も山陽新幹線も「整備新幹線ではない」からだ。
整備新幹線とは、1970年に成立した「全国新幹線鉄道整備法」に基づき、政府が1973年に計画した新幹線である。東北新幹線は盛岡以南と以北で経緯が異なり、盛岡〜青森間だけが整備新幹線だ。東京〜盛岡間は整備新幹線計画策定以前に計画された路線である。上越新幹線も同じ。つまり、東北新幹線の盛岡以南と上越新幹線には並行在来線は存在しない。JRからの経営分離もされなかったし、並行在来線問題もない。
岩手県、青森県、北海道は、整備新幹線の開業によって並行在来線を抱えた。そしてJR北海道に対して「寝台特急の存続」を求めた。これは筋違いだと前回述べた。寝台特急は並行在来線のために走っているわけではない。JRの利益のために走っている。その利益が大きければ並行在来線もおこぼれに預かれる。利益がなければ廃止は当然だ。寝台特急の運行を考える上で、通過する並行在来線の支援を考慮する必要はない。
JRは並行在来線維持に協力する約束だった
これは、並行在来線を抱える自治体にとっては厳しい話だろう。しかし、自治体側にも言い分がある。「JRは並行在来線維持に協力する約束じゃないか」だ。2009年、国の「整備新幹線問題検討会議」は、「整備新幹線の整備に関する基本方針」を定めた(参考リンク)。この中で、並行在来線について以下のように言及している。
(1)並行在来線の維持のあり方
沿線自治体の同意によってJRから経営分離された並行在来線については、地域の足として、当該地域のカで維持することが基本となる。一方で、JRも当該地域における鉄道事業者として、経宮分離後も並行在来線維持のためできる限りの協カと支援を行うことが定められる。こうした見地から、沿線自治体の要請があった場合には、関係者により必要な対策を検討するものとする。
最後の行によると、並行在来線維持のために自治体がSOSを発したときは、JRおよび国は必要な対策を検討する必要がある。この場合、必要な対策は寝台列車でなくてもいい。寝台列車をなくすというなら、別の方法で補てんすればいい。事実、北斗星が2往復から1往復に減便されたときは貨物列車からの線路使用料を増額して対応している。ただし、「検討」となっている点も気になるところで、検討しても策がなければお手上げ。わりと無責任だ。しかし、これを含めて自治体は合意している。新幹線が欲しいからだ。
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