赤字で当然、並行在来線問題を解決する必要はない:杉山淳一の時事日想(2/3 ページ)
並行在来線問題の本質は「新幹線の開通によって赤字になる路線を自治体が引き受ける」という枠組みだ。しかしこれは間違った見方だ。実は、整備新幹線の条件に、自治体による並行在来線の「運営義務」はない。廃止したって構わない。根本的に解決するなら、枠組みを変えるしかない。
自治体が並行在来線を引き受ける必要はない
整備新幹線の整備に関する基本方針で「沿線自治体の同意によって」とあるように、並行在来線を引き受けた自治体は、赤字となる路線を納得して引き受けている。なぜ納得したか。新幹線を作ってもらうためだ。
北海道新幹線の並行在来線を担う「道南いさりび鉄道」は線路も保有する上下一体型。JRによる貨物列車運行は存続するため、線路をJR保有のままとし、旅客列車のみ運行する会社とする方法もあった(出典:同社サイト)
整備新幹線の建設の条件は5つ。「安定的な財源見通しの確保」「収支採算性の確保」「投資効果」「JRの同意」「並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意」とある。前から4つの条件は新幹線を事業として安定させる目的だ。ここまでは事業者となるJRが新幹線でちゃんと儲かるための条件と言える。
並行在来線の経営分離は、並行在来線が赤字となるため、それをJRに負担させないという意味だ。新幹線をJRに運営してもらうための支援策とも言える。つまり、5つの条件は、すべてJRが儲かるための仕組みといえる。
そんな一方的な条件を、なぜ自治体が同意するか。赤字となる並行在来線を引き受けたとしても、新幹線がもたらす恩恵のほうが大きいと算段したからである。つまり赤字は納得済みだ。JRや国が支援策を検討して決定しなくても、その赤字は自治体が負担しなくてはいけない。並行在来線は赤字でも、新幹線の経済効果が大きいからだ。
ただし、注目すべきは自治体の合意条件である。並行在来線を「JRから分離する」が合意条件であって、並行在来線の「引き受け」は条件ではない。要するに、JRが並行在来線から撤退すればそれでいい。並行在来線は民間企業が運営してもいいし、引き受け手がなければ廃止でも構わない。「並行在来線の考え方」にも「並行在来線については、地域の足として、当該地域のカで維持することが基本となる」とある。「基本」とあるけれど「義務」ではない。
でも、赤字と分かっていて引き受ける民間企業はないし、地域の人々は並行在来線がないと困る。だから自治体が受け持たざるを得ない。つまり、並行在来線は元から営利を目指す事業ではなく、公共サービスである。道路や水道と同じで、赤字でも運営しなくてはいけない。そう決めてしまったら、赤字は地方の税金で補てんが当然。何も問題はない。つまり、並行在来線問題はもともとないのだ。
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