NFLから学ぶ人材スカウト術:元アメフトプレイヤー・有馬隼人さんに聞く(2/4 ページ)
なぜ米国でアメフトは人気が高いのか。その大きな理由の1つに「ドラフト会議」の面白さがあるのだという。元アメフトプレイヤーの有馬隼人さんに詳しく聞いた。
戦力が均衡する仕組みになっている
――NFLのドラフト制度に人気の秘密があるということですが、どういうことでしょうか。
NFLのドラフトは、完全ウェーバー方式を採用しており、前シーズンで最下位のチームから順番に新人選手を指名します。すなわち、前年にチーム成績が悪ければ悪いほど、より優れた選手を獲得できるようになるのです。
加えて、NFLはサラリーキャップ制で、各チームが所属選手に支払う年俸総額の上限が決まっています(※編集部注:入場料や放映権などリーグ収入の一定の割合が選手の総サラリー額として割り当てられ、それを全32チームで割ったものがサラリーキャップ額となる。割合は毎年変動し、2014年は1億3000万ドルだった)。つまり、たとえ活躍して年俸が上がってもチームのサラリー事情によっては移籍しなければならず、MLBのニューヨーク・ヤンキースのように、高額プレイヤーを何人も抱えるようなチームを作るのはNFLでは不可能なのです。
こうした2つのルールによって、おのずと各チームの戦力は均衡し、毎年どのチームが優勝するか分からないという状況が生まれているのです。これがNFLが人気である大きな理由です。
さらに、ドラフトに焦点を絞ると、各チームが選手を指名するまでに10分間の持ち時間があります。この短時間にほかのチームとドラフトの指名権や選手をトレードするなど、実にさまざまな駆け引きが行われているのです。ドラフト会議の様子は、会場での観覧はもちろんのこと、全米にテレビで生中継されています。各チームの戦略室には定点カメラが設置されていて、ゼネラルマネジャー(GM)たちの動きをリアルタイムで見ることができるなど、エンターテインメントとしての要素が強いです。これもNFLの魅力と言えるでしょう。
――ドラフト会議中だけでなく、シーズンを通して水面下で白熱するトレード交渉を行っているのですか。
もちろん。GMやスカウトチームは年中動き回っていて、シーズン中にもドラフト指名権のトレードがあったり、他チームの現役選手が欲しくて未来の指名権とトレードしたりしています。
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