企画力と実行力の祭典「鉄旅 OF THE YEAR 2014」の名作を見よ:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
一昨年に引き続き、2014年も「鉄旅 OF THE YEAR」の審査員を拝命した。旅行会社が企画する「鉄道の旅」のコンテストだ。2014年度のキーワードは、「最高の旅のさらに上」と「難易度の高いツアーのパッケージ化」だ。担当者の創意工夫に感動した。旅行業、鉄道業だけではなく、企画に携わるすべてのビジネスマンの参考になりそうだ。
ビジネス視点で注目は「SLブライダルパッケージ」
審査員特別賞は、所定の採点方法では上位にならなかった作品のうち、審査員が特に思い入れの多かった作品だ。受賞作品は日本旅行と大井川鐵道の「SLブライダルトレイン・パッケージプラン」と、クラブツーリズムの『三陸鉄道・北リアス線を全線走破 新型お座敷車両を貸切運行「お・か・し・な列車」2日間』の2作品。
また、ここまで受賞しなかった作品のうち、過去に受賞歴のない会社の作品の中から最上位の作品が選ばれた。読売旅行の『ゆったりめぐる思い出の九州鉄道の旅! 「乗り放題切符アクティブ65」利用、別府温泉&ロマンチック長崎 九州横断7つの鉄道物語3日間』だ。
このうち、私が注目した作品はSLブライダルトレイン・パッケージプランだ。この作品は今回唯一の受注型企画旅行である。ほかの作品は募集型企画旅行だ。募集型は旅行会社が日程やコースを決めて、列車や宿を確保した上で販売する。ほとんどのパッケージツアーはこの分野だ。一方、受注型は旅行者が日程、行程、料金の規模を伝え、旅行会社が旅程を提案する。主に修学旅行や社員旅行がこの分野だ。個人旅行でも旅行会社に一切の手配を依頼するとこの分野になる。
SLブライダルトレイン・パッケージプランは、大井川鐵道の駅で人前結婚式を催行し、SL列車で披露宴を開催するツアーだ。参加者は現地集合、または貸切バスやJR線を利用して大井川鐵道の新金谷駅に集合。同駅の駅長または代理人を立会人代表として結婚式を挙行。その後、SL列車に乗車して千頭駅まで往復。集合から解散まで約4時間のモデルプランが用意されている。
SL列車は通常のSL急行用客車ではなく、4両の特別編成となる。機関車側から1両目は普通客車で新郎新婦の控え室。2両目と3両目は宴会用のお座敷車両、最後尾には国鉄時代の1等展望車仕様だ。往復のお座敷車両で宴会、帰路の展望車でケーキカットなどのイベントを実施できる。
価格は現地の新金谷駅集合解散が基本コースで一式70人200万円。1人あたり6400円の加減調整が可能。この料金には、人前式と貸切列車のほかに、機関車に掲出するヘッドマーク作成費用、乗車記念券作成費用、ケーキ(入刀用1個・食用70個)、新郎新婦の前泊宿泊費(朝食付き)、着付け、新婦ヘアメイク費用などが含まれる。現地での下見も無料(ただし現地までの交通費は自費)。オプションで参列者の貸切バス手配、東京・名古屋・大阪発の新幹線団体旅行扱いが可能だ。
受注方式だから、基本プランからの多少の変更は可能で、SL列車を往路のみとし、千頭からバスで帰路へというプランもできる。大手旅行代理店の日本旅行が手掛けるから、日帰りではなく寸又峡温泉に宿泊して宴会の続きを、というプランにも対応してもらえそうだ。
私がこの作品を高く評価した理由は、自分がやってみたいから……ではなく、ビジネスモデルとして画期的だから。鉄道ファンのカップルが憧れる「トレインブライダル(列車内結婚式)」をパッケージ化し、ワンストップで提供している。
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