企画力と実行力の祭典「鉄旅 OF THE YEAR 2014」の名作を見よ:杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)
一昨年に引き続き、2014年も「鉄旅 OF THE YEAR」の審査員を拝命した。旅行会社が企画する「鉄道の旅」のコンテストだ。2014年度のキーワードは、「最高の旅のさらに上」と「難易度の高いツアーのパッケージ化」だ。担当者の創意工夫に感動した。旅行業、鉄道業だけではなく、企画に携わるすべてのビジネスマンの参考になりそうだ。
鉄道マンの心意気に感動した準グランプリ
準グランプリは、ジェイアール東海ツアーズが8月に3回実施した「親子で行く修学旅行 発見!東海道新幹線のおしごと」だ。東京発の1泊2日。1日目は東京で東海道新幹線の大井車両基地を見学し、東海道新幹線で名古屋に移動して宿泊。2日目は「リニア・鉄道館」を見学する。宿泊は名古屋駅真上にある「名古屋マリオットアソシアホテル」で、滞在中も夜景や新幹線の走行を眺められるという趣向だ。
このツアーの見どころは1日目に集約される。普段は非公開の大井車両基地を見学できるだけではなく、東京駅から大井車両基地までの回送線に乗車できるところ。大井車両基地では電車に乗ったまま洗車機を通過できたり、ドクターイエローの車内を見学できたりと、普段できないことばかり。新幹線50周年もあって、JR東海が全面的に協力している。ジェイアール東海ツアーズはJR東海の子会社だからできた企画とも言える。
2日目は博物館見学だから特別感は薄れる。しかし、このツアーだけの特別授業が用意されていて、専門の職員が新幹線の仕組みを紹介したり、ダイヤの作成を体験できたりする。名古屋から東京への帰路の新幹線では、車掌さんの車内検札を体験できる。
このツアーは私も参加したかったけれど「親子で行く」とあるように、子ども同伴が条件。……いや、正しくは大人の付き添いが必須の子ども向けツアーなんだけれども。ただし「大人は親御さんでなくても」という条件だから、叔父叔母、祖父母、成人した兄や姉でもOKだ。私もどうにか参加したくて、近所の子どもを連れて応募しようと考えて踏みとどまったくらいだ。
このツアーは3人1室で1人あたり大人4万6000円から、子ども3万8500円から。新幹線の名古屋往復と一流ホテル宿泊、そしてこのツアーでしか得られない体験ばかりだから、お買い得である。審査員からのコメントも「ぜひもう一度」「毎年恒例に」と望む声が多かった。もちろん私もその一人である。
しかし、ジェイアール東海ツアーズによると、親会社のJR東海の安全意識、セキュリティー意識はとても高く、実現はなかなか難しいのだという。その言葉から、さまざまな部分で交渉が難航したり、お堅い、いや、職務に厳格な鉄道幹部を説得したりと、大変な苦労があっただろうなと想像した。お客さまの安全管理のために、JR東海は警備要員や説明要員など数十人を配備したそうだ。
それでもツアー中は車両基地の職員が手作りの横断幕で歓迎してくれたり、子どもたちの質問にも丁寧に応えたりする場面があったという。夏場のイベントだけど基地内には空調のない場所も多く、簡易クーラーや大型送風機を設置。塩飴なども配布したとのこと。旅行会社にとって儲けは薄いかもしれないし、現場の鉄道職員にとっては本来の業務外の負担だけど「子どもたちに夢を与えたい」という情熱を感じた。
大変だと思うけれど、それでも近いうちに開催してほしい。できれば今年も、せめて10年後に。「次は100周年」だと私は間に合わない……。
関連記事
- 大井川鐵道に『きかんしゃトーマス』がやってきた本当の理由
ファンの「いつかは日本で」の願いが叶った。2014年7月2日、大井川鐵道が『きかんしゃトーマス』の試乗会を開催。実際の鉄道でトーマスが運行したのは、英国、米国、オーストラリアに続いて4番目。アジアでは初めて実現した。なぜトーマスが日本で走り始めたか。表と裏の理由を明かそう。 - なぜ豪華列車「ななつ星in九州」に傷がついたのか
JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」がいよいよ発車する。日本の鉄道旅行の新展開であり、旅行業界にとっても期待の商材だ。しかし直前になって不穏な情報が2つ流れてきた。それは……。 - 「きかんしゃトーマス」は成功、自治体とは絶縁寸前? 大井川鐵道に忍び寄る廃線の危機
2014年の鉄道重大ニュースを選ぶなら、大井川鐵道の「きかんしゃトーマス」は間違いない。しかし、地方鉄道としての大井川鐵道を取り巻く環境は厳しい。事前通知なしの減便で自治体から不満の声が上がった。 - 企画を競って業界全体を盛り上げよう――「鉄旅オブザイヤー2013」審査後記
「鉄旅オブザイヤー2013」というコンテストがある。国内旅行会社が企画、実施した鉄道ツアーの優秀作品を選び、表彰するというもの。2011年から始まり、今年で3回目。さて、今年のグランプリに選ばれたのは……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.