企画力と実行力の祭典「鉄旅 OF THE YEAR 2014」の名作を見よ:杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)
一昨年に引き続き、2014年も「鉄旅 OF THE YEAR」の審査員を拝命した。旅行会社が企画する「鉄道の旅」のコンテストだ。2014年度のキーワードは、「最高の旅のさらに上」と「難易度の高いツアーのパッケージ化」だ。担当者の創意工夫に感動した。旅行業、鉄道業だけではなく、企画に携わるすべてのビジネスマンの参考になりそうだ。
豪華列車と豪華客船の組み合わせ
グランプリ作品は、クラブツーリズムが2014年7月に開催した『「ななつ星in九州」と「飛鳥II」夢の競演 大地と海をめぐる豊穣の九州』だった。7月15日出発、5泊6日の1回限りのツアーである。なぜ1回切りかというと、「ななつ星 in 九州」の設定日と、豪華客船「飛鳥II」の航海日程を重ねて、双方を乗り継げる日が2014年は7月18日のワンチャンスだったからである。
まずは発想が飛び抜けている。完成された企画を聞けば「そりゃあ豪華な列車と船が揃えばいい旅になるに決まっている」と思う。しかし、そもそもこの2つを組み合わせるという発想は大胆だ。ななつ星 in 九州は日本の鉄道旅の最高峰である。私のような凡人は、それ以上の旅など考えられない。しかし、クラブツーリズムは「最高のさらに上」を目指した。その答えが、究極の船旅「飛鳥II」との組み合わせだ。ななつ星 in 九州が鉄道旅の頂上だと思っていたら、クラブツーリズムはさらに高みを目指していた。私が憧れていた頂上は五合目に過ぎなかった。企画者の志の高さに感動した。
ただし「豪華な旅を組み合わせればもっと豪華に」という発想だけでは企画にならない。本当に実行できるかをリサーチして、ななつ星 in 九州のチャーター便枠の運行日程の中で、「飛鳥II」の博多港寄港日を見つけた。この日を発見したときは担当者が小躍りしたのではないか。ここから発想が企画へ向けて動き出すのである。
まず、ななつ星 in 九州のチャーター枠の確保、「飛鳥II」の客室の確保が先決だ。これはクラブツーリズムとJR九州、郵船クルーズの取引実績が効いてくる。そして最高の組み合わせを実現したいという趣旨を両社に理解していただくことで可能になった。
実はななつ星 in 九州の博多到着時刻からだと「飛鳥II」の出港時刻に間に合わない。そこは郵船クルーズの粋な計らいで、「飛鳥II」の出港を1時間遅らせて対応してくれた。豪華列車と豪華客船の組み合わせだけ思い付いてもダメだ。実現には会社が培ってきた長年の取引実績と信頼関係が必要だ。企画者だけではく、先輩たちが築き上げた経験と実績が生きてくる。
これだけの豪華ツアーになると、日本屈指の富裕層が顧客となるだろう。恐らく年齢層も高めだ。そこで脇もしっかり固めている。ななつ星 in 九州の博多発は昼前だから、東京発だと朝7時台の航空便になる。遅刻は許されない。そこで、参加者の自宅から羽田空港の送迎ハイヤーも用意した。鉄道と船だけではなく、航空機もあるから、実際には陸海空を制覇するツアーとなっていた。また、事前に食べ物の好みやアレルギー情報、旅への要望などを伺い、その情報をすべての行程のスタッフが共有している。
ななつ星 in 九州は3泊4日、「飛鳥II」は2泊で日南海岸を経由して神戸港に至る。日南海岸の花火大会を洋上から楽しむ趣向となっていた。この「日南花火クルーズ」も「飛鳥II」では人気の高いコースの1つだという。料金は2人1室で一人あたり85万円から。最高クラスで同130万円だった。ななつ星 in 九州は、国内鉄道旅行には興味を示さなかった富裕層を取り込んだ。
こういう旅があると、富裕層ではなくても「こんな旅をするために頑張って働こうかな」「リタイヤ後の人生のご褒美があるな」と思える。日本を元気にしてくれるツアーだ。
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