月面無人探査レースに挑戦中の日本チーム、次なる計画とは?:宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)
Googleがスポンサーとなる民間月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」の中間賞が発表された。日本から唯一参戦しているチーム「ハクト」も受賞。2016年後半の打ち上げ計画に向けたハクトの取り組みとは――。
次世代への橋渡しも
こうした世界の競合チームとともに中間賞を受賞したハクトは、米ジョージア工科大学院卒の袴田武史氏が経営面を、小惑星探査機「はやぶさ」や小型衛星「雷神」の開発にもかかわる東北大学の吉田和哉教授が技術面をリードし、「Moonraker」「Tetris」という大小2つのローバーを開発中だ。今回の記者発表では、中間賞受賞報告に加え、今後のミッションに関してAstroboticとの月面輸送契約と、2016年後半に米国から打ち上げる計画が発表された。
具体的にはAstroboticのランダー(月面着陸船)「Griffin」に、同社のローバー「Andy」とハクトのMoonrakerおよびTetrisを相乗りで搭載する。Astroboticが別途調達する米SpaceXのロケット「Falcon9」で打ち上げ、月面のLacus Mortisに着陸する計画だ。月面着陸後にそれぞれのチームがXPRIZEミッション達成を目指してスタートを切ることになる。
AstroboticにとってハクトはXPRIZEを競う相手でもある。ただ、来日したジョン・ソーントンCEOは「我々は月面までのDHLやFedExのようなものだ」「過去に月面着陸したのは3カ国だが、今後世界中の国々が月面に行き、科学実験や探査活動ができるようにしたい」と語るように、XPRIZEよりも、長期的な月面輸送インフラビジネスの提供者となることをより重要視している。
一方、ハクトはXPRIZEのミッションとは別に、オリジナルミッションとして「縦孔」探査も計画している。「縦孔」とはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の月周回探査機「かぐや」が世界で初めて発見した月面に存在する垂直型の穴で、地下の溶岩トンネルに繋がっている可能性があり、将来の月面有人探査の際のシェルター機能としての活用が期待されている。
今回の発表ではXPRIZE財団のテクニカルディレクターを務めるアンドリュー・バートン氏も来日し、民間宇宙探査の意義が語られた。バートン氏は国家主導の宇宙開発の歴史を踏まえた上で、XPRIZE財団が取り組む民間宇宙探査の強みとして「Agile」「Faster」「Cost effective」というキーワードを挙げた。
さらに、次なる世代への橋渡しという意義もある。吉田教授は「今回の取り組みが次の世代に道を開くことを期待したい」と語り、バートン氏も「XPRIZEの取り組みはSTEM(Science Technology、Engineering、Mathematics)教育の意図もある」と説明する。一気に熱を帯びてきた民間月面探査レースだが、ここからが本当の挑戦であろう。2年後、新しい宇宙探査の時代が切開かれていることを期待したい。
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