10年分の志望企業ランキングが映し出す、就活生たちの姿(3/3 ページ)
毎年、就活に関するさまざまなデータが公開される中、注目されるのは「志望企業ランキング」。今回は、この10年を通して学生の志望度が安定していた業界、および経済指標などとの関連性が見られるかどうかについて考察する。
横断的な視点2:経済指標との関連性
次に、各業界に対する学生の関心と経済指標との間にどれだけ関連性が見られるのかを探っていきます。
世相を反映してきたという志望企業ランキングですが、具体的にどういった経済指標との関連性が示されるかを調べました。関連性を示す指標として参考にしたのは相関係数です。1から−1の範囲で表され、1に近ければ近いほど同じ推移をしており、−1に近ければ近いほど逆の動きをしていることを示します。
まず経済成長率(右軸)とインフラ・官公庁業界(左軸)の推移を合わせてみていきます。
計測された相関係数は−0.5でした。値以上に、視覚的には非常に強い負の相関性があるように感じられます。経済成長が鈍っている年にはやはり堅実な業界が人気になるようです。
このようにはっきりとその理由が分かるものもあれば、反対に原因は明確でないものの興味深い結果もありました。それがインフレ率(右軸)と生命保険・損害保険業界(左軸)です。
計測された相関係数は0.83と非常に高い正の相関性を示すものとなりました。グラフでも両者はそれほど単純な推移ではないにもかかわらず似通った動きをしています。
ここでインフレ・デフレと保険商品とのかかわりについて説明しておきます。デフレとインフレである同じ値段の商品を買う場合を想定してみましょう。
デフレのように貨幣価値が高い場合であれば商品を購入するのに必要な貨幣は少なくなり、結果として安い値段で購入できます。
しかしインフレはその逆で、貨幣価値が低くなっているため、同じ商品を購入する場合でも多くの貨幣が必要となります。その結果、物価が高いと感じるのです。
このことを前提として保険という商品を買う場合を考えます。保険とは、加入料を支払うことで何らかの事故などが起こった場合に一定額を支払ってくれる制度一般を指しています。
ここでいう一定額とは、インフレ時においてもデフレ時においても一定という意味です。つまり、インフレ時のように貨幣価値が下がっている場合というのは、保証されている支払額が目減りしてしまうというリスクを持っています。保険の商品としての価値は一般的にインフレに弱いのです。
このように考えれば、保険を商品として販売し利益を得ている保険業界が、なぜ商品価値の落ちるインフレ率が高い時にも人気を維持しているのか説明がつきません。単なる偶然として考えるべきかもしれませんが、非常に興味深い結果となりました。
ランキングは指標として機能し得るがバイアスもある
ここまで見てきたことを踏まえれば、志望企業ランキングはある程度の世相を反映していると考えることもできそうです。
しかし、リクルートがランキングの発表を「学生の志向が多様化している」という理由から取りやめたように、こうしたランキングだけでは測りきれない部分が出てきたことも事実です。
企業側も情報技術の発達やベンチャー企業の隆盛などを反映して、一概にある1つの業種としては捉えられないような事業を行う所も見受けられます。学生側にとっても、そして企業側にとっても就職活動に際する指標として、ランキングではない、より正確なものを求めている段階が近づいているのではないでしょうか。(深澤祐援)
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