世界一をかけて戦うトヨタに死角はないのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
フォルクスワーゲン、GMとともに自動車業界の「トップ3」に君臨するトヨタ。しかし、この2社をはじめ、世界のほかの自動車メーカーにもない強みがトヨタにあるのだという……。
とは言っても、やりようがないわけではない欧州と違って、行き先に本当に暗雲が立ち込めているのが中国だ。中国の抱える問題の根元は「共産党支配下の自由経済」という矛盾にある。本来市場に任せるべき調整を、党が強力な指導力で人為的に行っているため、淘汰のシステムが働かない。成長局面では党の統制による選択と集中が効果的に働き、最速の成長を実現したが、反転時の波乱含みの局面ではこうした計画経済は脆い。
経済が天井を打ったり、底を突いたりしたときは先行きがどうしても運任せになる。経済は突き詰めればマインドが決める世界だ。上がるのか下がるのかを市場が迷っているときは、例えば、党幹部のスキャンダルや、天災、紛争などの外部要因が経済の行方に強力にレバレッジをきかせてしまい、順当な予測が成り立たなくなるからだ。これは経済学者ジョン・メイナード・ケインズの言う不確実性そのもので、今後発生する問題の規模と時期が不確実な状況では、期待値を元にするリスク計算ができなくなるのだ。
そうした局面から脱出するためには、自由人による楽観的予測に基づく投資が最も効果的だ。簡単に言えば、多くの人がそれぞれ勝手な行動をすると、どんなに予測不可能な状況でも、誰かがたまたま正解に至ることがあるということだ。誰かが正解を見つければ全員がそれにならう。そうやって経済は立ち直っていく。
そういう資本主義システムを経済の中にせっかく持ちながら、中国では、党が常に絶対的正解を出して指導しなくてはならない。それは打率10割を期待する話なのでどんな天才であっても不可能なのだ。現在、党は最後の悪あがきをしているところだろうが、最終的には市場に勝てないだろう。経済的混乱がどの程度になるかは分からないが、少なくとも何も起きないとは考えにくい。問題がせいぜい局面打開である欧州に対して、中国は本質的な構造転換を求められている分、根が深い。
こういう世界情勢下で、フォルクスワーゲンは販売台数の約7割を欧州と中国で稼ぎ出している。サイコロが悪い目を出したらひどいことになるし、少なくとも順当な予想として、良い目が出るとは思えない。トヨタ有利と考える理由はそこにある。米国マーケットは現在堅調だし、日本も消費税増税の冷え込みが一段落した今、特別に懸念材料があるわけではない。むしろ欧州と中国の問題が日米に飛び火することが懸念材料である。
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