世界一をかけて戦うトヨタに死角はないのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
フォルクスワーゲン、GMとともに自動車業界の「トップ3」に君臨するトヨタ。しかし、この2社をはじめ、世界のほかの自動車メーカーにもない強みがトヨタにあるのだという……。
トヨタの自己改革
トヨタは2007年に当時の絶対王者だったGMにほぼ並び、台数ベースで世界一に王手をかけた。翌2008年の上半期にはついにGMを抜いてトップに躍り出たが、折悪しくサブプライムローンとリーマンショックのダブルパンチを浴びて一気に赤字に転落した。2000年代に入ってから拡大政策を取ってきたトヨタは、工場の生産効率を高め、常時フル稼働させてきたのだが、景気の急落で生産台数を調整しようとすると、工場がそれに対応できないことが分かった。小ロットでの生産や、生産車種変更などを飲み込む柔軟性が生産プロセスに欠如していたことが露呈したのである。
トヨタはこれに素早く反応した。まず新規の工場建設を凍結し、その資本を既存工場の改善につぎ込んで柔軟性改革を実行した。従来の方向は、特定の車種を単位時間あたりに最も多く作れることに特化していた。しかし生産設備を、最小のセッティング変更でどんなクルマでも作れるように改善し、さらにロットをまとめずに処理できるようにした。トヨタではこれを「1個流し」と呼ぶ。部品を数十個まとめてラインに流すのではなく、1個で流す。普通に考えれば効率の悪化を招くはずだ。
トヨタがすごいのは、それを「シンプル・スリム」、「汎用化」、「工程短縮」、「明るくきれいで安全な職場」というキーワードで再構築し、場合によっては従来より効率を上げた点だ。こうした柔軟性改革によって工場の稼働率は2007年の70%から2013年には90%に向上した。何しろ、ラインの長さは言うに及ばず、工場の面積や梁や柱の削減までがプレゼン資料に明記されている。手放しで絶賛するのが怖くなるような“カイゼンマシーン”ぶりだ。
もう1つ、すさまじい話がある。例えば、プリウスがモデルチェンジするとき、従来ならクルマが変わるのだから生産設備に莫大な投資が必要だった。ところが新しい生産方式では、かなりの部分をセッティング変更で飲み込めるようになったため、モデルチェンジの設備投資が2008年比で50%下がった。
あまりピンとこない人もいると思うが、この影響は甚大だ。万が一、他社の競合車に先行を許したとき、抜き返すための仕様変更のハードルが下がった。ホンダがニッチなヒット作を出したら、これまで以上に即座にキャッチアップして迎撃モデルを最短で作り出せる。
モデルチェンジでの設備投資額の出血を他社より抑えられるから、モデルチェンジを重ねるほど有利になり、浮かせたコストを研究開発に回せる。それはさらに投資を圧縮する要素にもなっていく。そもそもに戻ればトヨタは利益率の高さが特徴なのだ。それがさらに強くなる。
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