進化するスマートフォン、その分岐点:小寺信良「ケータイの力学」
頻繁にアップデートを行うAndroid OSだが、すべてのユーザーがアップデートを行うわけではない。ユーザーが必要性を理解しない場合もあれば、既存の機種ではアップデーターが提供されない場合もある。
2011年12月にAndroid 4.0に対応する端末が発売され、今年頭には既存端末へのアップデートが各社から提供される見込みだ。このバージョンから、スマートフォンとタブレットのユーザーインタフェース(UI)が統合される。これまではスマートフォンは2.x、タブレットは3.xと分かれていたので、バージョンの把握が煩雑だったが、今後はもっとわかりやすくなるだろう。
Android OSは、スマートフォン向けの2.xの変遷を見る限り、2~3カ月に1度とかなり頻繁にマイナーアップデートが行なわれている。PCユーザーにとってはOSのアップデートは珍しいことではないが、ケータイしか知らないユーザーにとっては、そもそもOSという概念が希薄であることもあって、アップデートする必要性が理解されない。
アップデートによってはPCに接続してアップデーターを走らせる場合もあり、これまでケータイをPCに繋ぐという習慣がなかったユーザーには、ハードルが高い。
一方、アップデートしたくても、できないユーザーも存在する。端末メーカーが新OSでは十分なパフォーマンスが出ないことを理由に、アップデートを断念するケースだ。また、メジャーアップデートには対応するが、マイナーアップデートには対応しないメーカーも多い。
現在はキャリアの2年縛り契約があるため、機種交換はだいたい2年ごとになるユーザーが大多数だと思われるが、2年経たずにアップデート不能になるモデルもあるだろう。これに対してGoogleは、メーカーやキャリア各社と協力して、端末リリースから少なくとも18カ月間はアップデートを保証するガイドラインを2011年5月に発表している。
ただこのガイドラインは発表された当初話題になった程度で、現在もこれが機能しているのか、協賛メーカーは増えているのか、といった続報はない。ググっても見つからないので、そういうリリースもないのだろう。
アップデートされない弊害
なぜアップデートにこだわるかと言えば、以前問題にした、Android開発者向けとユーザー向けのレーティング表記が違うという点が、現行の最新OS2.3.7では解決しているからである。以前は開発者向けが全対象、低、中、高でユーザー向けが全員、少年向け、青年向け、成人向けとなっていた。これが平行に一対一対応するのか不明だったが、新しいOSではユーザー向けレーティングも全対象、低、中、高に表記を統一されている。
ただ筆者の手元にある端末では、OS2.3.3までのアップデーターしか提供されないので、自分で試してみることができない。細かい修正と言ってしまえばそれまでだが、保護者にとっては重要なポイントである。
このレーティングのあり方については、いくつかの議論がある。まずユーザーの成熟度に対する判断が、セキュリティとITリテラシーと有害情報が全部連動するようになっている。例えばITリテラシーが高い中学生にもっと広くネットを利用させたいと思っても、同時に個人情報の収集といったセキュリティ上懸念があるところも解放することになる。これは子どもばかりでなく、大人でも十分な議論が必要な部分である。
通信機能に関しては、さらなる問題もある。レーティングの“全対象”では一切外部アクセスしないもの、“低”では一部の限定された通信のみ許容されたアプリが表示される事になっている。ところがこの“全対象”と“低”では、フィルタリングソフトのiフィルターが利用できない。
なぜならばiフィルター for Androidには、親が子どものスマートフォン利用をリモート監視する機能があり、これが「通信機能あり」としてレーティングに引っかかるからである。
インストール時だけレーティング変えればいいじゃないか、という意見もあるだろう。それはもっともなのだが、リテラシーの低い保護者ほどこういったアプリが必要なのに、そんなテクニックが必要になるというのは、趣旨に合わない。
あるいはフィルタリングソフトにリモート監視機能が必要か、という議論もあるだろう。ただこれまでのPC向けフィルタリングソフトでも、レポートを定期的に保護者にメールする機能があった。これは厳密に管理するというよりも、知ってるが見逃す、いわゆる見守っている状況を作るのに必要な機能である。一番マズイのは、子どもが何をやってるのか保護者が全く把握できないという状況になることである。
Androidは、アップデートの問題、レーティングの問題から、フィルタリングが完全に機能しない状況になる可能性が事実上あり得ると考えるべきかもしれない。3月4月の入卒シーズンまでにスマートフォンと青少年保護手段を整理する必要がある。
小寺信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia +Dモバイルでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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