Apple Watchで感じた心地よさと物足りなさ――待たれる“キラーアプリ”の登場(2/2 ページ)
「スマートウォッチは物足りない」と感じていた筆者がApple Watchを使ってみた。購入したのは「Apple Watch Sport」だ。なぜこのモデルを選んだのか? そして改めてApple Watchを使ってみて感じたことは?
Apple Watchならではの“手放せないアプリ”が待たれる
ただし、繰り返しになってしまうが、そんなApple Watchも、実用面ではやはりスマートウォッチの枠内にある。このまま使い続けるかどうかという問いに対しては、まだ確信をもって「YES」と答えることはできない。上記のように、本格的に使おうとすると両手がふさがってしまうし、デバイスサイズの制約上、どうしてもないと困るアプリがすぐに出てくるとも思えない。スマートフォンに比べると、どうしても身に着けている必然性が薄いのだ。体に直接接している分、通知には気づきやすいが、そもそもメールやメッセンジャーは非同期でコミュニケーションできるのが魅力だったはず。リアルタイム性を追求するなら通話の方がいい。
では、Apple Watchを使い続けるためには、何が足りないのか。アプリの必然性が薄いと言っておきながら、手の平を返すようだが、このデバイスの魅力を高めるのはやはりアプリだと思う。ただし、それは、これまでのスマートフォンアプリの延長線上にはない発想で作られたものだ。筆者が特に期待したいのが、「操作せずに使えるアプリ」。通知そのものが必然性を持つアプリなら、小さな画面で無理に操作をする必要がなくなる。
現時点でこれに該当するのが「Google Now」だ。Google NowはAndroid用のリコメンドシステムだが、アプリを入れればiPhoneでも利用できる。Google Nowで通知をオンにしたうえで、Googleカレンダーに目的地の時間と場所を入れておくと、そこから逆算して出発しなければいけないタイミングを教えてくれる。Apple Watchの場合、そこからナビにつなげられないのは残念だが、Google Nowからの通知が届いた時が腕に身に着けていて始めて本当に役に立ったと思った瞬間だった。当然ながらGoogle NowはAndroid Wearの基本機能になっているが、質感の高さや使い心地のよさではApple Watchに一日の長がある。Android Wearも現時点ではAndroid専用のため、この機能をiPhoneで使おうと思ったら、Apple Watchが唯一の選択肢だ。基本機能のアクティビティに備わっている「スタンド」のお知らせも、操作しないでユーザーに行動を促すアプリの典型例といえるだろう。
こうしたアプリとは少し性格が異なるが、ビジネス用途では、テザリングをApple Watch側からオンにできるアプリがあると便利だ。似たようなアプリはAndroid Wearには存在するが、Apple Watchでは直接iPhoneの設定を変更できないようだ。ただ、カバンの中にしまったままのiPhoneをコントロールできれば、利便性は高まる。筆者の場合、記者会見や打ち合わせの際に机の上にPCを広げるが、その際にテザリングを使うためにiPhoneをわざわざバッグから取り出している。この一連の作業をApple Watchだけでできれば、すぐにPCを使い始めることができる。筆者の場合はテザリングだが、人によっては着信音をオフにしたり、データ通信量を節約するためにモバイルデータ通信をオフにしたりと、ほかにも用途は考えられそうだ。その点では、まだアプリの開発者が使える機能が不十分だといえる。登場してまだ間もないデバイスのため仕方がない部分はあるが、今後の拡張には期待したいところだ。
Apple Watchの認知拡大につながる売り方は評価できる
デバイスそのものとは関係ないが、最後にAppleの販路ついても触れておきたい。ご存知のように、Appleは、Apple Watchを高級時計のような販路、手法で販売しようとしている。予約制の試着に始まり伊勢丹 新宿店やDover Street Market Ginzaでの販売は今までのスマートウォッチにはなかった取り組みといえるだろう。実際にモノをじっくり試してから買えるのは、「最もパーソナルなデバイス」にふさわしい。
逆にいえば、これまでのスマートウォッチは、実際に試せる場所があまりにも少なかった。Webだけの販売が多く、リアルな店舗にあったとしても、置かれているのはスマートフォンの周辺機器売り場。テクノロジーやスマートウォッチに関して強い関心がある層以外には、存在していること自体が伝わっていなかった。これに対して伊勢丹のようなデパートや、日本を代表するファッションブランド・COMME des GARCONS(コムデギャルソン)の川久保玲氏がディレクションを行うDover Street Marketで取り扱われているApple Watchは、スマートウォッチに全く興味がなかった層にまでその存在を知らしめることができている。
デジタルガジェットを扱う既存店でも、ソフトバンクモバイルは表参道や銀座などにApple Watchの専用コーナーを設置しており、家電量販店の売り場を見ても、スマートフォンの周辺機器といった印象はまったく受けない。このように、販路や売り方の面からもApple Watchを広げる努力を怠っていないのは、流通も含めた「オペレーションの天才」と呼ばれたティム・クック率いるAppleならではといえるだろう。無論、Appleのブランド力があったうえでではあるが、ここまで幅広い層に訴求しようと努力している点は高く評価できる。
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